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【”熱”々のカップルには最高の”海”】
その後、僕らはどの方面に向かうが迷ったが、直感で熱海方面の電車に乗った。電車に揺られながらどこで下車しようか考えていたが、せっかくなので熱海まで行くことにした。
「次は、終点、熱海。」
車内に響くアナウンスが、旅の第二幕の始まりを告げた。
駅を出ると、横浜のような都市部とは少し異なった、南国のような空気が微かに漂っていた。
「飯どうする?」
横浜で時間をロスしたこともあり、時刻は1時を回っていた。
「うーん。やっぱり海鮮系?」
「だよね。」
彼の答えに僕も同意を示し、ネットで店を検索する。
いくつか良さげな店を見つけたが、それよりも地図の下半分を占める海が気になってしまう。
「ただ、とりあえず海近いし見に行く?」
「おっけー。」
僕の問いかけに彼は軽く乗ってくれた。
僕らは街を歩いて海岸へ向かったが、途中の階段を降りる度に海の匂いが強まってきた。そして階段を降り切った時、海岸沿いに建つローソンが目に入った。
「あそこで飯買って浜辺に座って食べるか。」
「アリやな。」
僕らはそれぞれおにぎりとサンドウィッチを買い、海を眺めながら作戦会議をした。海へ来たのは久しぶりで、なんなら太平洋側の海に来たのはこれが初めてかもしれない。海は揺蕩い、空ではいくつかの雲が青を強調していた。幸いなことに、天気は晴れており、空気は澄んでいる。しばらく、僕は海の開放感に浸っていた。
ただ少し視線を落とせば、海沿いでは数組のカップルがイチャイチャしている。なぜか、熱海の気温は横浜よりもかなり高く感じた。それにとても暑苦しい気もする。
僕は少し眩し過ぎる海から目を逸らし、スマホで熱海の観光スポットを探す。
「この後どうするかやな〜。」
「じゃあ、こことかどう?」
彼が差し出したスマホには、神秘的な伊豆山神社の本宮が映っていた。
「めっちゃいいじゃん!」
「じゃあとりあえずここ行こ!」
昼食を終えた僕らはバスを乗り継いで伊豆山神社へ向かった。
鳥居をくぐり、少し階段を上がると、ブランコがあった。なぜかそれは僕たちが来た時から揺れていた。おいおい、階段はいくらでも登るけど、怪談はマジで無理なんだって。僕は本当にこの手の話が苦手だった。しかしなぜか、しばらくそれを見ていると小さく寂しく揺れる姿に親近感を覚えた。
そしてまた階段をしばらく上がると神社が見えてきた。手水場では紅白の龍が出迎えてくれた。ただ、神社から少し目を移動させると何やら一風変わったものが目に入った。見に入ってしまった。
「こころむすび」という名のそれは、簡易的な絵に記載されがちな心臓の形をしていた。だからか、やけにカップルが多いのは。少し嫌な予感がしてたが、的中してしまったらしい。
しかも、少し歩くと”池”があった。もちろん、中で優雅に泳いでいるのは鯉だ。僕とは無縁の、鯉だ。”いけ”好かない。
廃れた心で神社の周りを少し歩いていると街と空と海が一望できるスポットを見つけ、なんとか息を吹き返した。しかも少し横では猫がお昼寝している。
そして、綺麗な景色と可愛い猫に癒された僕らは、遂に本宮に向けて出発した。ここから本宮までは大体40分ほどだった。僕はちょうど3日ほど前に富士山に登っていたので、これぐらい楽勝だ。と思っていた。
僕が富士山に登れたのは自分の身体能力のおかげではなく、道具や服が素晴らしいからだ、ということをこの40分間で嫌というほど理解させられた。
僕は今朝、適当に街をぶらつくだけだし、と考えて黒の少し厚めのパンツと黒Tを選択してしまっていた。また、靴も普通のスニーカーだった。そのため、言葉通りの滝汗だった。しかもかなり虫がいる。ただ、そんなのに構っていたら汗は一向に引かないので、”虫”は”無視”した。しかし彼との距離が開くため、”焦”って”汗”は加速した。そう、僕のダジャレのように止まらなかった。
一方の友人は短パンにランニングシューズを履いており、結構登った後でも涼しい顔をしている。
彼の体力と活力を前に、ある友人の顔が浮かんだ。そして同時に、もしかすると友人たちが凄いのではなく、僕がヘボすぎるのでは、という悲しい考えが頭をよぎる。
そして、なんとか本宮までは着いたが、体力の限界だった。しかし少し登ってきたこともあり、息が整うと涼しさが感じられ、次第に汗も引いてきた。そして改めて本宮を見据える。山奥にひっそり佇む様は、神秘性を携えるとともに、厳かな空気を周りに纏っていた。
ただ、ここからまたあの道を帰ることを考えると絶望感が心を支配した。本宮が少し薄暗く見えた気がした。
「お、なんだこれ?」
不意に友人の声が静かに響く。何か見つけたようで傍に近づく。彼の眺めているものは地図だった。
「これ、もしかして下山しなくてもいいんじゃね?」
友人が呟いたことが事実かを確認するために僕も地図を見る。そこには、付近にあるバス停の位置が示されていた。
「マジじゃん。」
僕は本宮の荘厳さに感謝してバス停へ向かった。
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