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【夜の井戸端会議】
9月のある土曜日。バイトの休憩中にふとスマホを見ると、友人からLINEが来ていた。
「青春18きっぷが余っちゃったから、明日それ使ってどっか行かない?」
彼とは今期、大学の授業で知り合った。その授業は英語で地球温暖化を学ぶというやつだった。もちろん、僕はかなり苦戦した。大学の講義を選ぶ際には、興味よりも単位の取りやすさなどで選んだ方が良いというのは百も承知だが、どうしても履修登録期間は興味がある講義に惹かれてしまう。ただ、今回に限っては彼と知り合えたので悪く無い選択だったと思う。
そして、春学期の終わりに、また夏休みでも会おう、と約束して別れた。そして夏休みに入ってすぐ、彼がインスタのストーリーでタイにいることを知り、DMを送る。彼の話では、タイでミャンマーの人と交流するプロジェクトに参加しているという。言い忘れていたが彼の父はアメリカに住んでおり、その影響もあって彼は英語がペラペラだ。ただ、僕も英語がペラペラだ。そう。ペーパーの方ね。
そして、DMでやりとりをしているうちに、9月末頃に飲みに行こうという話になって、一度会話は終わっていた。そんな折に彼から連絡があり、驚きはしたが同時に嬉しかった。
しかし、その日は数日前にバイト仲間から飲みに誘われていた。僕が参加するのは初めてで、いつ頃終わるのか分からないが終電で帰ったとしても寝るのは2時頃になってしまうだろう。それに富士登山をした週のことだったので実はまだ疲れも残っている。
ただ、最近は出不精の解消と未知の体験を志向する傾向が高まっていたこともあり、
「バイトあるから少し遅い時間帯からなら大丈夫!」
と送った。
これに対して、彼は全然大丈夫だと言ってくれ、さらに最寄り駅まで来てくれるという。
おいおいイケメンかよ。
流石にこれを送ったら引かれそうなので、心の中に留めておく。
そしてバイト後、飲みに参加した。飲み自体は初めてだったが、小規模かつ同年代ということもあり、楽しめた。そして居酒屋から出ると、一つ上の先輩の二人と出会い、軽く立ち話をした。
終電の時間も近くなり、しばらくで解散したが、僕は先輩のうちの一人と同じ帰り道だった。僕はバイト先でも陰キャで話しづらいはずなのに、先輩は気さくな人で僕にも話題を振ってくれた。そして、それに応えるためか、はたまた酒が入っていたからか、僕は少し素を出した。素というのは、くだらないことを言うというだけである。ダジャレとかね。
ただ、先輩はそれを面白がってくれ、乗り換えの時にもう少し話したいから歩いて帰ろうとまでも言ってくれた。僕も話し心地がとても良いと感じていたので快諾して歩き出す。
乗り換えの駅から僕と先輩の最寄り駅まではそれぞれ一駅と二駅しか離れていない。そのため、僕の家までは徒歩20分ほどだけで話し足りず、しばらく道端で話を続けた。
様々なことを話した後、先輩と別れて帰路につく。気づけば2時になっていた。
夜の特有な静けさと煩さが街を包んでいた。
僕は彼に「10時集合でもいい?」と送る。
結局、寝たのは3時半だった。
翌朝、寝不足で重い目を擦りながら僕は身支度を整え、時間通りに彼と集合した。
そしてとりあえず、一度大きい駅に出て横浜駅を目指そうと決めたが、ここで誤って違う電車に乗ってしまった。戻る電車に乗って再度横浜駅を目指してもいいが、時間もかなりロスするし、何より面白みに欠ける。そのため、僕らはその駅で下車し、自転車をレンタルして横浜駅へ向かうことを決めた。
僕は中高校生の頃によく自転車で登下校していたが、高校生の時に2度事故に遭って以来、あまり乗っていなかった。そして、上京する際にももちろん自転車は持って来ておらず、レンタルをするのも初めてだった。そのため、2、3年ぶりの乗車だった。うまく操縦できるか不安だったが、体が覚えており、すんなりと乗れた。
と言いたいのだが、僕は電動自転車に乗るのは初めてだったので、何度か体が加速に置いていかれたり、Uターンする時に加速して溝にハマりそうになったりと、意外と苦戦した。
ただしばらく乗っていれば次第に慣れてきて、僕らは街を疾走した。電動であることと、心地よい風が吹いていたこともあり、汗は大してかかなかった。
途中、僕らは積極的に脇道にそれた。おかげで、横浜らしからぬ農業地域や、少し高台にある公園、広大な墓地などに出会えた。そしてたまに軌道修正しながらチャリを漕いでいると、次第に周囲の風景が横浜の街並に変わり、無事に着いた。
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