今昔コロッケ思い出話

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「ちょっとキミ。ここは憩いの食堂だ。そんな物騒なものは仕舞ったらどうだい?」  元カレの背後に男子生徒が現れた。彼はこぶしを上げている元カレのうでをつかんで笑っていた。元カレもなかなか背が高い方だったが、それと変わらない背たけに、爽やかな笑みを浮かべたその人は――そうだ、生徒会長だ。 「……それにレディに対してこんな乱暴は見過ごせない。ことと次第によっては生徒会長であり柔道部主将の僕が全力でキミを止めるよ」  生徒会長はそう言いながら私の胸ぐらをつかむ元カレのうでも強く握った。 「うっ」と元カレは目をしかめ、私から手を放した。こぶしを握っていたうでは後ろ手に押さえられている。 「生徒会長だかなんだか知らねえけど、彼氏彼女の問題に突っ込んでくるな」 「はて、おかしいな。この子はキミと付き合っていないと言っているが」 「ふざけんな! この一か月俺は罰ゲームでコイツと付き合ってたんだよ!」  途端に食堂内がシンとした。当たり前だ。この男、自ら墓穴を掘っているのだから。しかし頭に血がのぼっている彼は、そのことに気づいていない。  生徒会長は彼から手を離すと、うでを組んで顔をしかめた。 「罰ゲームで付き合っていた? つまり彼女を弄んだってことだね?」 「は? ちげぇし。一か月も彼氏としてちゃんとやってただろ?」  元カレは私の方を向いていびつな笑顔で言った。いや、そんなことを堂々と言われてもドン引きの一手だ。一緒に食事をしていたクラスメートの女子たちも、さげすむような視線で元カレを見ている。 「ウソでも言って良いことと悪いことがあるだろう」  生徒会長はそう言うと、誰にとも言わず「なあ?」と同意を求めた。すると食堂中から「サイテー」「ひどいヤツ」という声が細々と上がった。元カレはようやく口を滑らせたことに気づいたらしい。 「とにかく、ウソでも俺とミチは付き合ってたんだ。これからも、だろ?」  今さらこんな男と誰が付き合う?  私はお弁当箱をしまうと、一緒に食事をしていたクラスメートに「教室もどろうか」と声を掛けた。彼女たちも無言でうなずくと一斉に立ち上がる。そして元カレと生徒会長の二人を見上げながらにっこりと言い放った。 「私、付き合うなら生徒会長みたいな文武両道で紳士な人が良いの。だから二度と彼氏面とかしないで」  そして私は颯爽と食堂を立ち去った。  食堂のあちこちから口笛が聞こえた気がするが、恥ずかしがったら負けだ。
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