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昼休み、クラスメートの女子グループに誘われて食堂に向かった。私はお弁当だけど、食堂でお弁当を食べても構わない校風だから、気兼ねなくランチを楽しんだ。
「なあ、ミチ。ちょっと良い?」
すると元カレが私の肩を叩いてにっこりほほ笑んだ。
「昨日のメッセージなんだけど……」
グループの一人が目ざとく「なになに? 二人ってそういう仲?」とはしゃぐものだから、私はすかさず「んなわけないじゃん」と一刀両断した。元カレの顔色が白くなっていくのが分かる。
私はため息をつきながら元カレを見上げる。
「昨日メッセージなんてやりとりした? そんな記憶ないんだけど」
投げやりな言い方にさすがの元カレもムッとした。
「――明日で夏休み終わるね。どこ行く? ……これ、ミチだろ?」
私は「やだねえ、よく見てよ」とスマホ画面を元カレに押し返した。
「そのユーザー、アンノウンになってるけど」
「……あれ? は? どういうこと?」
どういうことも何もない。昨日のうちにメッセージアプリを削除して新しいアカウントを作ったと言うだけ。もともと元カレグループとのやり取りのためだけにダウンロードしたものだったのだから、今さら彼らの登録がなくなったぐらいで、私はなにも困りはしない。むしろ――。
「え、ミチちゃんそのアプリ入れてるの?」
「登録しよー」
クラスメートの彼女たちがはしゃいでスマートフォンを取り出す。私は笑顔で「いいよ」と言って自分のスマートフォンを取り出した。すると元カレは乱暴に私のスマホを持つうでをつかんで立たせた。
「話がある。来い」
「は? あんたに命令される筋合い、ないんですけど」
「あるだろ? 俺は彼氏だ」
「私に彼氏なんて崇高なもの、いませんけど?」
「夏休み中連絡取り合ってたくさん遊んで、何枚も俺との写真も撮ったのはだれだ?」
「じゃあ、その写真みせてよ」
「うっ……」
たしかに私は元カレと付き合っている間、何枚も写真を撮った。
すべて、私のスマートフォンで。はしゃいでいた私が、嫌がる元カレを拝み倒して取ってもらった写真。もちろん、そんなものはデータ削除してこの世に残っていない。
そして元カレは以前、私が「写真送ろうか?」と提案したとき、こう言ったのだ。
「思い出は写真じゃなくて心に刻まれるもんだよ」と。
いやいや、思い出すとなかなか寒いセリフだ。こんなセリフを吐く男にときめいていたのかと思うと、夏休みの私はよっぽど熱に浮かされていたらしい。
「とにかく、あなたみたいな浮ついた人、タイプじゃないんで。話しかけないでもらえます?」
「ふっざけんな――」
白かった顔が今度はカーッと紅潮していく。こういうの、なんていうんだっけ。化学で――リトマス試験紙みたいですね、って言うんだっけ?
そんなことを思っているうちに私は胸ぐらをつかまれてイスから浮いていた。元カレは怒りで我を忘れている。充血した元カレの目には、私の体を持ちあげて投げるか殴るかで悩んでいるようにみえた。
「離して――」
息が詰まって言葉が出ない。元カレの右手がこぶしを握ったのが見えた――そうか、殴るのか……。
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