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放課後、元カレの恨みがましい視線を無視しながら、教室を出て階段を降りていると「キミキミっ!」と声が掛かった。ふり返れば追いかけてきたのは生徒会長だった。
「あの、さっきのことだが……」
「さっき?」
「昼休みの……」
私は「ああ」と思いだすと「先ほどはお騒がせしました」と頭を下げた。
「いや、ちがうんだ。あ、いや、違わなくもないが……」
生徒会長は顔を赤らめながら目が右往左往している。先ほどの食堂での凛々しさがどこかへ行ってしまっている。だがそれも愛嬌のようで(かわいいな)と年上相手に失礼だと思いつつも、そんなことを考えていた。
「どうしたんですか? 私に用事でも?」
「その……さっき食堂で言っていただろう? 付き合うなら……その、僕みたいな……」
私はキョトンとして首を思いっきりかしげてしまった。
「何か言いましたっけ?」
「え……」
生徒会長の笑顔が固まってしまった。しかし私も食堂では頭に血がのぼっていたから、何を言ったかなど、うろ覚えでしかない。
付き合うなら……うーん。
「付き合うなら文武両道で紳士な人が良いって言った気がします」
「そう、それだよ」
「はて?」
私は頭を抱えながら必死に思いだそうとした。あのときの情景を思い出せばセリフが――ああっ!
「私、付き合うなら生徒会長みたいな文武両道で紳士な人が良いの。だから二度と彼氏面とかしないで」
私は顔を手でおさえながら「ごめんなさい!」と生徒会長をそっと見上げた。
「失礼なこと、言っちゃいました」
「そのことなんだけど」
生徒会長は頬を掻きながらぼそっと言った。
「もしキミさえ良ければ、僕と付き合ってほしいな、と」
私は目を丸くしながら生徒会長を見上げた。
「で、でも……あれはその、言葉の綾で」
「分かってるよ。もちろん、本気で僕のことを好きじゃなくても良いんだ。きっと僕のことを好きにさせるから」
そう言ってはにかんだ生徒会長の表情を見て、私は息を呑んだ。
「……私、生徒会長の名前、知らないんですけど」
「中島直人。キミの名前は? ミチって名前なの?」
私は首を横に振った。
「川路美智子です」
「そうか」
「はい」
私は胸がドキドキと早く脈打つのを感じた。
「名前以外に知りたいことがあれば、何でも聞いてほしい」
「じゃあ」
私はスマートフォンを取り出した。
「メッセージアプリ、やってますか? IDを教えて欲しいです」
生徒会長はすでにスマートフォンを手にして笑っていた。
「もちろん!」
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