優しい観客と虹色の和音

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美沙(みさ)が刑務所に入ってから、ものすごく長いような、充実とは程遠いような、そんな日々を過ごしてきた。 とにかくあの子が戻れる場所を作ってやりたかった。 とにかくあの子が寄りかかれる場所を作ってやりたかった。 マンションを()うて、落ち着けるだろう部屋をこしらえて、ずっとずっと、この日を待っとった。 約束の場所は、私がボウガンで撃たれた公園にした。ちょい意地悪かなとも思うたけど、あそこはこの街でいちばん虹がよく見える。 こんな梅雨空で、雷鳴も効果音みたいにしとるけど、予報ではザッと雨が降ってその後に晴れるらしい。きっと美沙の未来を祝すような虹が出るはず⋯と期待しとる。ご都合主義かも知れへんね。でも、きっと祈りは通じる。それでなかったら、別の虹を見せたろ思うて策も講じとるから大丈夫や。 公園への道すがら、職場のバイト君が雑居ビルの壁に(もた)れているのが見えた。何や、思い詰めた顔してんなあ。私の力が及ぶ範囲だけ。ちょっとだけ。何かしてやれることがあるかも知れん。声かけてみよ。
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