マミの半生

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そのまま、マミを家まで送り届けると、 「こっちから連絡するよ」と言って彼は走り去り、 それから1週間が経ちました。 それまでLINEで連絡を取り合う仲だったので当然、 通話も試みましたが、ユウジは出ません。 不在着信の表示が、画面にズラリと並びました。 「あれ?電話つながらない?」などと、ユウジの わざとらしいセリフが一言だけ、安物のケーキに 挟まれたクリームみたいに薄くサンドされています。 そのクリームを頼りに、マミは、 「今、彼は仕事で忙しいんだ」と心をフラットに 保つべく、大人の塗り絵など買い、 黒く塗り潰しながら、 4、5日待ってみたのですが、なしのつぶてです。 漢字では、梨の礫と書きますが、果物の梨は 関係ないそうです。 要するに、ダジャレですね。 ユウジは次男坊だということもあり、比較的 自由が効くようにという意味合いを込めて、 親が付けてくれたのだと言っていたことを 思い出しました。 どうせ、後付けの小話でしょう。 親からして、そんな感じなのかもしれません。 カップルにありがちな小競り合いな喧嘩の後も、 「悪気は無かったんだ」とか言ってくるのですが、 悪気はあったに決まっています。 知ってるコに「子供が欲しかったので結婚したの」 などと(のたま)う女子がいるのですが、マミには本心とは思えません。 順番を踏む知的な女に見せたいが為の、 自己プロデュースだと、思っています。 話が横道に逸れてしまいましたが、ユウジよ! 逃げ切れるもんなら逃げてみな。 後付けの自由なんぞ、必ず奪ってやると、 マミは固く心に誓ったのです。 そして、時はハロウィン間近でしたので、 楽しげな仲間内のコスプレハロウィンパーティーで 盛り上がっている写真など、友人ぐるみで 拡散し、彼の孤立感を煽りました。 やがて、度重なる投稿にいたたまれず、自ら投降。 木曽の山中に隠れていることが判明したわけです。 「逃げたわけじゃない、信じてくれ、 1人になって覚悟を決めたかったんだ」と、 ようやくLINEが来て、ユウジは頭を丸めて、 下山してきました。
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