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「では参りましょう!今話題の2人組、春感です!どうぞ〜!」
1年に1度の大舞台である漫才ショー、賞金1000万円をかけて何千組っちゅう芸人がこの大舞台に立つために努力してきた。
俺らもその内の1組で、今話題と評されているが芸人なんて売れても続かへんことなんてざらや。
何としてでも爪痕残しとかんと、すぐ忘れられてしまう。
だからこそ、この毎年視聴率20パーセント越えの大舞台は芸人が芸能界で売れていくための第1歩って考えてもいい。
何個も予選をくぐり抜けて選抜された8組の芸人がこの大舞台で漫才するんやけど、その中には事務所の先輩やテレビで見いひん日はないっちゅう芸人もいる訳で緊張すんなって方が難しい。
舞台の裏側、扉の前で息を整える。
深呼吸...俺あがり症やねん
ふと、隣におる相方を見やると、相方は緊張の『き』の字も感じてないような涼しい顔してネクタイを整えとる。
はー、やっぱ相方かっけぇわまじで
俺がじっと見てたのに気づいたのか相方がこちらに振り向き目が合った。
いつも通り、相方は俺をジト目で見てちょっと不機嫌そうにした。
「何見とんねん、もう呼ばれとるんやからシャキッとしろや」
それだけ言って、前を向いた相方。うん、やっぱかっけぇわ。
俺はもう一度大きく深呼吸して、目の前の扉が開くのを待った。
司会の大先輩芸人に呼ばれて、少し焦らしてから入場っちゅうのはこの漫才ショーの定番であって、俺はその焦らされとる時間、相方に毎回気合い入れてもらっとる話や。
目の前の扉はスローモーションみたいにゆっくり開いていくように見えて、毎回「はよ開けや」って思う。
薄暗い舞台裏とは違って、華やかにライトアップされたステージはまるでアイドルにでもなったみたいや。
「行くで」
相方の言葉を合図に、階段を降りていくだけでお客さん達は歓声を上げた。
ステージの真ん中に備え付けられている1本のマイクの前に立つまでその歓声は続き、期待の目が俺らを見やる。
緊張はする、でも1人やないし何度も繰り返しネタを確認してきた。
でも、何よりその期待に答えようと俺に流れてるなにわの血が疼いた。
「どうも〜春感です〜!よろしくお願いします〜!」
よっしゃ、お客さんも、審査委員の先輩芸人も、テレビ関係のスタッフも、テレビの向こうの視聴者も、お茶の間でお茶出来へんくらい笑わせたるわ。
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