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彼女はいつも理系な感じの論理構造で話すし、『察してちゃん』でもない。クラスの中では真面目ナンバーワンの成績優秀な生徒、という感じだ。でも、アジフライを食べてるのに何の用なんだ?と少し腹が立っている自分もいた。それでもとりあえず話を聞こう...
亙『いきなりどうしました?もう6時ですよ。』
沙也加『いやぁ、問題が生じまして。学校の校庭に猿が。』
亙『え!?まぁ、ここは大きな山に近いから時々来るらしいけど校庭に出るとは。で、なに?協力依頼?』
沙也加『そんなところです。罠とか持ってますかね。』
亙『あるような、ないような... 確認してきます。』
沙也加『はぁい。』
鳴海さんとは、あんまり話したことがなかったけど、やけにフランクな感じだな。もっとお堅い秀才さんだと思っていた。もしかして、私と同類の「変人」なのかな...?
亙『母さん、猿捕まえる罠ってある?』
母『あるよ、持ってくるわね。』
亙『え、ないと思って聞いたのに。あるんだ...』
母『まぁね。』
(1分後)
母『これよ。丁度食べ頃のバナナも持っていくといいよ。』
亙『ありがとう。』
インターホンで話していたが、こんな一大事が在ったと成ってはほっとけないので、アジフライを置いて、罠withバナナを渡しに外に出て話す。
亙『お待たせしました。こちらが罠とバナナです。どうぞ。』
沙也加『ありがとう。えぇ、重いな。代わりに運んでください。』
亙『分かった。』
学校へと罠を運びながら思った。なぜ家に猿の罠なんかあるんだろう。父さんもおじいちゃんも猟師やってたわけじゃないし。なんだかな... と思いながら答えの出ないまま学校に着いた。
学校の一つの木の周りに少し距離をとって県警の皆さんと先生たちがいる。その更に遠くに生徒達が屯している。よく目を凝らしてみると木の上に猿が陣取っている。そして、木の下の人間たちをジーッと見ている。私は担任の足立俊治先生に話しかける。
亙『猿の罠を持ってきました。使えますか?』
先生『あぁ、木の下に置くぐらいなら。ありがとう。』
先生は罠を警察の人に渡した。渡された警察の人はゆっくり木に近づいて罠を置いて戻ってきた。しばらく猿は動かなかったが、辺りが完全に闇に包まれた頃、木を見守る人は警察、私、鳴海さん、足立先生だけ。そのとき、猿が罠に掛かった。警察が即座に罠ごと護送車のようなものに収容した。猿は私たちをジーッと見据えて、目を離さなかった。まるで私たちの姿を目に焼き付けて、後で仕返ししようとしているようだった。そして騒ぎは終息。
沙也加『今日は協力してくれてありがとう。』
亙『当然ですよ。騒ぎが長引けば学校に来れなくなる所だったし。』
先生『助かったよ。しかし、何で罠なんて持ってたの?』
亙『よくわかんないんですけど家にありました。』
先生『んー、あ。君の大叔父さんが猟師だよね。』
亙『大叔父さん?親族に猟師なんて居ないと思ってました。』
先生『ずいぶん前にやめちゃったからね。』
亙『どうしてですか?』
先生『どうやら鹿にド突かれて怪我したことでやめたらしいよ。怪我は直ぐ治ったみたいだけどトラウマになったんだって。』
亙『会ったことないし、誰からも聞かなかったから知らなかったです。』
先生『そうか。』
沙也加『もう10時ですよ。皆帰りましょう。』
亙『じゃあ、さようなら。』
沙也加『さようなら。』
先生『また明日ね!』
家に帰ると、玄関にひどく憤慨した母が立ち塞がっていた。
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