68人が本棚に入れています
本棚に追加
「…………宮瀬ッ!」
その声が、遠のきそうだった宮瀬の意識を呼び戻す。
「おい、宮瀬!しっかりしろ、聞こえるかッ!?」
「あ……あっ……は……はい……」
「もういい……」
「は……はい……?」
「もう、手を放していいと言ったんだ」
「手……を……?でも……そうしたら彼女は……」
「怪異の除去は終わった。怪異化も、嬢ちゃんの肉体もかなりギリギリのラインだったがな……」
そう言ったコートの男の手には、心臓のように脈打ちながら蠢く白い物体が握られている。
「それが……今回の怪異ですか……。成功……したんですね……。ああ……よ……良かった……です……。どうやら、彼女も無事みたいだ……」
さっきまで生気の感じられなかった由紀の真っ青な顔には徐々に血の気が戻り始め、彼女は小さく呼吸を始めている。
「後は、まかせとけ。俺が祓う」
そう宮瀬に言い、息を吹き返した由紀の様子を一瞥するとコートの男は立ち上がり手に握っていた白い物体を高く放り投げた。
そして、腰に巻いたホルスターから再び拳銃を取り出してその白い物体へと銃口を向け男は引き金を引く。
辺りにはあの銃声のような破裂音が辺りに響き渡った。
同時に宙を舞った白い物体は破裂するように飛散すると、ボトボトと地面に落ち、破片はまるで蒸発していくかのように跡形も無く消えた。
「まったく、妖怪ごときが手間取らせやがって……」
そう嘆息をつきながらコートの男が拳銃をしまい、宮瀬が倒れていた由紀の様態を確認している。
その光景を見た栞は彼らの仕事が終わったことを理解した。
終わったんだ……。由紀ちゃんは……助かったんだ……――。
栞は抱えた膝を解いてすぐさま由紀の元へと駆けた。
最初のコメントを投稿しよう!