ー願いと呪いー

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 由紀の様態はかなり危険な状態だった。  怪異による霊核への侵食、そして、その除去に伴う心肺停止状態。それが小学生というまだ幼い体に及ぼす影響は深刻だ。  そんな由紀を抱え山を下りた宮瀬がすぐに救急車を呼び、彼女はすぐに近くの病院へと搬送されることになった。  豹変した友達、そしてコートの男と黒いスーツの男2人の目を疑うような立ち回りを目撃し、日常から非日常へと突き落された栞は体の震えが山を下りてからも止まらず、まるで見てはいけないものを目の当たりしたような、そんな恐怖と不安を抱えたまま、彼女は浅く呼吸をしているの由紀の手を最後に握り学校の校門前で救急車を見送った。  サイレンの音が遠くなって行く。呆然と立ち尽くしていた栞は考える。どうしてこんなことになってしまったのか――と。  三度(みたび)栞は自分を攻めた。  彼女はその場で泣き崩れ、その気持ちを察したように宮瀬が「君のせいじゃないよ」と慰める。コートの男は内ポケットからおもむろに煙草を取り出してその二人の様子を一瞥すると火を付けた。  「フゥー……確かに、そいつが言うようにあの由紀って子がああなっちまったのは嬢ちゃんの責任じゃねえ。あの子は、そもそも(すが)るものを間違えたんだ。どのみち、ああして取り憑かれていただろう」  おまじないをすると、良くないモノに取り憑かれる――それと同じような話を母親から聞いたことがあるのを栞は思い出した。  あのおまじないは『こっくりさん』と一緒だ。おまじないをどこかで間違えたりすると、そこには狐の霊が現れてその場の人間を呪う。だから、絶対にやってはいけない遊びだと、そう母親から教わった。  事実、栞もあのおまじないが少々危険なものだとはどこかではわかっていた。わかっていたはずなのにと、その後悔がさらに栞の胸を締め付ける。  「まさか……縁間(えんま)様も、それと同じだったなんて……わたし……思わなくて……だから……どこかで、大丈夫だろうって……やっぱり、わたしの……うぅぅ……わたしのせいで由紀ちゃんは……」  自分の両肩を抱き震えている栞の背中を宮瀬が「大丈夫かい?」と摩っている。  「ふん、縁間様か……」  コートの男はやや呆れたようにそう言って、地面にぽとりと落とした煙草を革靴の裏でぐしゃりと踏みつけた。  「……誰が言い始めたかはしらねえが、えらく都合の良い解釈をした奴がいたもんだ。縁の間を取り持ってくれる神様だぁ?ふざけやがって、あれはな、そんな大それたもんじゃねえ。元々は、なんてことの無いただの“熊”だったんだからな」  「……く……ま……?」  それに思わず栞が顔を上げた。
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