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「今回嬢ちゃん達がやったまじないだが、あれはいわゆる一種の“交霊術”ってやつでな。似たようなまじないに『こっくりさん』ってのがあるが、あれは漢字で『狐』、『狗』、『狸』と書き、それで『狐狗狸』と読むそうだ。地域で呼び方は様々だが、いつの時代も巷で流行するまじないってやつの正体ってのはな、大抵その辺にいる行き場のない動物たちのような下級霊を簡易的な儀式で悪戯に呼び出しているに過ぎないんだよ」
コートの男が言うように、こっくりさんと同様のおまじないは全国各地で観測されている。
名称は様々だが、いずれのおまじないもその方法や禁忌といった部分において共通していることは多く、『呼び出す対象の名前を言わなくはならない』、『おまじないを途中で辞めてはならない』、『呼び出した対象は指定されたやり方で帰さなくはならない』など、ある一定のルールの上で執り行う必要がある。
もし、それを破った場合はその場にいる全員が呪われると言われていることから、参加者全員はこのルールを厳守するのが鉄則となる。
しかし、実のところこれらのおまじないにはそのルール意外にも破ってはならない“最大の禁忌”というものが存在する。
こっくりさんのようなおまじないをする時に最も気を付けなければならないこと――。
それは――“おまじないを信じ過ぎない”――ということである――。
「そもそもな、動物の霊は霊障も起こす力も無い下級霊がほとんどだ。多くの動物は死後浮遊霊となり、辺りをうろつくのが関の山の本来は無害な連中さ。だが、人間から恐れられたり、それこそ信仰の対象にでもなれば話はまるで変わる。“信じる”ってことはその“存在を認める”って事だ。そうなると、厄介なことに連中は徐々に力を持っちまう。哀れなことに、次第に勘違いし始めるんだ。自分は特別で神聖なものなんだってな」
おまじないは簡易的ではあるが歴とした儀式だ。
儀式とは、本来信仰心によって執り行われるものであるが、それを行う事で呼び出された霊魂は存在という概念をより強固なものにする。
いくら取るに足らない下級霊でも、人間から認知され、信じられ、恐れられ、崇められ、そして一度祀られれば――やがては“そのように振舞い出す”。
そして、その信仰心が人を呪い殺すほどの霊障を引き起こす凶悪な怪異へと成長させてしまう。
『こっくりさん』とは、人間の心が作り出した怪異そのものなのだ――。
コートの男は縁間様もそれと同じだと栞に言った。
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