68人が本棚に入れています
本棚に追加
ー再会ー
美佐子の腕の中で栞は次第に平静を取り戻していった。
それを見計らって「もう大丈夫だからね」と栞の頭を撫でた美佐子は、栞からそっと体を離すとその場から立ち上がり、傍で微笑を湛えていた宮瀬の方に居直り深々と頭を下げた。
「警察の方から、“熊に襲われていた娘たちをあなた方が助けてくれた”と伺いました……。本当に、なんとお礼を言ったら……」
重症の由紀を病院へ搬送するために救急車を要請した宮瀬はあらかじめ警察にも通報を入れていた。それは、由紀の搬送後に彼女の様態を見た病院側から警察に通報されるのを避ける為と栞を保護してもらう為だ。
まず、理由もなく人が大けがをすることは無いのだから事情を説明するにもまだまだ彼ら怪異狩りの仕事は世間では一般的ではなく、病院側、警察側の怪異に対する理解は期待できない。
裏山に入った少女2人の内、1人は重傷、そして、その場所に居合わせていたのが目つきの悪いコートを着た男と黒いスーツに身を包んだ怪しい瞳を持った男の2人とあれば、警察から事件性を疑われることは必死である。もし、自分達が被疑者にでもなれば厄介だ。
そこで、宮瀬は便宜上、熊に襲われていた少女を助けたという設定で由紀の搬送と栞の保護を考え、病院と警察のそれぞれに要請を出す事でその先手を打ったというわけである。
こうした厄介事の処理を担っているというよりは無理やり押し付けられている宮瀬は、未だ頭を上げない美佐子に「いえいえ、僕らはたまたま通りかかっただけですから。お気になさらず」と軽やかに微笑み美佐子の方へと歩み寄った。
「幸運にも熊は僕らを見てすぐに逃げてくれました。人助けなんて、そんな大それたことはしていません。だから、どうか頭を上げてください」
宮瀬は言った。
「ひとまずは、あなたの娘さんが無事で良かった」
「あなた方のおかげです……。ありがとうございます……本当に……ありがとう……」
そうして、手で涙を拭いながらおもむろに美佐子は頭を上げると「そういえば、あなた方のお名前もまだお聞きしていませんでしたね……。私ったら、なんて失礼なことを……」
と、涙で崩れた顔をしゃきりとさせて彼女は目を細めて微笑んでいる宮瀬を真っすぐに見た。
最初のコメントを投稿しよう!