07. トラブルは再び

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 契約でしか繋がっていない関係を何必死に守ろうとしてるんだろう。こんな事淳さんは望んでいたのかそれすら分からない。でも契約上はこうするしかなかったはず。  単なる契約だけの関係を守っていられたら、面倒くさいという気持ちはあるかもしれないけどこんなに胸が苦しくなることはなかったと思う。一瞬でもときめいて、心を動かされてしまったが故に喪失感のようなものが私の心を苦しめるのだ。  自分のやっていることが虚しすぎて、膝を抱えて静かに涙を流していた。すると、頭に何かが乗せられた。顔を上げると、隣に朔斗くんがいた。私の頭を優しく撫でている。 「ごめんなさい、今休憩中で」  泣いているところを見られてしまい何とか取り繕おうとしたんだけど、何て言っていいか分からなかった。休憩中なのと泣いていることは結びつかないはずなのに、朔斗くんは頷いて頭を撫で続けている。 「うん、遼兄に聞いた。その上で、沙耶香さんが奥の席で知らない女性と話ししてるのが見えて。ごめんなさい、あまりにも気になって少し話聞いちゃいました。あの人、前に言っていた浮気相手ですよね」  人の話聞かないでよ……そう言いたかったけど、朔斗くんには怒れなかった。本気で私のことを心配していて、たぶん私の表情を見て、気になってそうしたんだろう。 「妻に別れを要求しに仕事場に押しかけるってすごい度胸だよね。驚いちゃった。まあ、彼女としては夫が浮気してるってことを伝えられただけでも十分だったのかもしれないけど」  頑張って笑顔を作ったけど、朔斗さんはそんな私の顔を両手で包みこんでじっと目を見つめてきた。 「無理に笑わなくていいですよ。見てる俺のほうが辛くなります。泣くくらい辛かったんですよね? それなのにあの人の前では毅然とした態度を取っていて、すごいなって思いました。でも、沙耶香さんにこんな辛い思いさせる旦那さんが俺には理解できないです。さっさと別れちゃえばいいのに」  すごく……なんか無い。私は結局、色んな人に嘘をついている。古坂さんにも、朔斗くんにも。自分の保身のために、うわべの姿を見せてるんだ。早くこんな偽りの姿捨ててしまいたいのに、それができないのが辛い。 「簡単には別れられないんだよ。だってまだ終わってないから、けい……」  契約、その言葉が口から飛び出しそうになった瞬間、遠くから遼太さんの声が聞こえた。
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