01. 驚きの提案

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 何をどう聞き間違えたんだろう、私は頭の中で必死に考えたけど、どう考えてもこれは求婚の言葉にしか聞こえない。たった今結婚する気は無いって言ったはずなのに。それに私は林田さんとそんな話をするほどの関係性はないと思っているんだけど。一体何を言っているんだろう? 「……言っている意味が分からないんでもう一度いいですか?」  あまりにも私が険しい顔をしていたんだろう。林田さんは慌てて口を開いた。 「ごめんごめん、大事なところが抜けてた。これじゃプロポーズだよな。えっと、結婚する真似事というか、お仕事的な感じで形だけ籍を入れてもらえないかっていう相談なんだ」  とりあえずいきなりの愛の告白じゃないことが分かってホッとしたものの、形だけ籍を入れる、の意味がよく分からなかった。 「いわゆる契約結婚、っていうやつ。お互いに籍を入れる必要がなくなれば契約解除、つまり籍を抜く事を条件に籍を入れてほしいんだ。飯島さんにもメリットがあるようにするから」  契約結婚……そんなの漫画や小説の中の話だと思っていた。まさかそんなものが自分に突きつけられるなんて。 「林田さんはどうして契約結婚なんてしたいんですか?」  林田さんはビールで喉を潤してからゆっくりと説明してくれた。   「俺の父はとある会社の専務をやっているんだけど、小さい頃からの口癖は平の社員じゃあ仕事なんて命令されるだけで給料だって安い。いい男で在り続けるためには昇進しろ、人を使う人間になれ、が口癖だった。俺には4歳上の兄がいるんだけど、今は大企業の取締役になってる。 別に俺は昇進にそこまで興味はなかったんだけど、半年前、父に無理矢理見合いをさせられたんだ。相手は昔から付き合いのある斎田財閥のご令嬢、一人娘だ。そもそも見合いなんてしたくなかったのに、よりにもよって相手は見た目が派手で、ブランド好きで、男は外見と収入しか見ていないような人なんだ。俺はもちろん断りを入れたんだけど、向こうは納得してくれなかった。 早々にこっちから断ったのも良くなかったのかもしれないけど、とにかく見合いは成立させるってきかなくて。俺が既婚者になってしまえば向こうも諦めるんじゃないかと思ってるんだけど、今の俺には結婚できるような相手はいなくて困っていたんだ」
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