01. 驚きの提案

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 これについてはあっさりと返された。 「ああ、大丈夫だ。基本的に家族とはあまり連絡を取らないんだ。結婚する時に挨拶だけ来てもらえれば良いよ。あとは……結婚式の代わりにウエディングフォトの1つも撮れば文句は出ないから」  なるほど、それも問題なしか。でも、なかなか簡単には首を縦には振れずにいると、腕のあたりを優しく叩かれた。 「今すぐに答えを出せとは言わないよ。むしろ真剣に考えてくれて安心してる。決心がついたら言ってくれればいいから」  ひと通り話したいことは終わったみたいで、それからは林田さんの雑談を聞きながらお腹を満たし、支払いをどうするかで一悶着して店を出た。自分から誘ったからと全額払おうとする林田さんに、私は4割位のお金を押し付けた。割り勘で、という約束だったから。 「じゃあ、また明日。お疲れさまです」  そう言って帰宅した。家に帰ってからも契約結婚のことが頭から離れなかった。正直、今の仕事環境は精神的にはギリギリだ。クローゼットの奥にあるケースから通帳を取り出した。毎月少しずつお金を貯めてはいるけれど、このペースだと目標額まであと2、3年はかかる。何かしら手を打たないと今のままであと3年は辛すぎる。だけどそこまでするべきなんだろうか。結局この日中に答えは出せなかった。  翌日出社すると、林田さんはすでに仕事をしていた。昨日の資料を確認しているのだろう。それを横目に朝イチの管理部打ち合わせに向かい、今日の業務の確認を終えてデスクに戻ると、林田さんがこちらにやってきた。 「飯島さん、昨日の資料申し訳ないけど追加頼めるかな。ここまで分かりやすく纏めてくれたら思ったよりも話が進められそうなんだ。他の業務に影響出そうなら無理にとは言わないけど」  追加の作業は30分もあれば終わりそうなので引き受けることにした。 「それと、これ昨日お願いした作業の参考資料。時間がある時でいいから目を通しておいてもらえるかな」
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