01. 驚きの提案

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 そんな状況において唯一味方になってくれたのは、この部署の課長である井上課長。現在32歳で仕事ができる上に高身長で整った顔立ち。井上課長に近づく女性社員の声色は普段より半音ほど高くなる。  そんなキャピキャピとした態度が苦手だったのもあったらしく、井上課長はよく私に声をかけてくれた。私は相手を選ばず一定の距離を置いていたし、井上課長も50過ぎの管理職のオジサマ社員も接し方は同じだったから。だけどその態度がまた嫌われる原因を作った。要は『気がないふりして気を引いてる、その態度がムカツク』ということらしい。  来客があればコーヒーを出せと言われ、会議資料も井上課長が均等に作成作業を割り振ったはずなのに、気づけば私が大半を作ることになっていたりする。だけど、誰も助けてなんかくれない。私を助けたところで私に押し付けられるはずだった仕事がまわってくるだけ。そんな面倒なことに巻き込まれたくない、というのが周囲の本音なんだと思う。  そんな私にとっての貴重な休息時間といえば、お客さんが帰ったあとコーヒーカップを片付ける時間。片づけが終わってからも可能な限りは給湯室の中に籠って休息をとる。だけど、いつもそんな時間は長くは続かない。 「飯島さん、どこに行ったのかしら。今日中の資料、そろそろチェックしたいのに」  廊下から聞こえてくる声にウンザリする。派閥のリーダーである西岡(にしおか)沙苗(さなえ)さんの声だった。西岡さんは専務か誰かの姪っ子らしく、部内でも逆らえる人はほとんどいない。  西岡さんの言っている資料は西岡さんが作るはずの資料で、チェックするのは井上課長だ。この間みたく、仕事をおしつけておいて、課長に出す前に自分の色を出そうと勝手に手直しした挙げ句、チェック時にそこを指摘されるようなことがなければいいけど。私は目を開けると寄りかかっていた背中を壁から離して、頭のスイッチを切り替えてデスクに戻った。
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