01. 驚きの提案

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 結局この日も大半の人たちが定時であがる中、私はひたすらに手を動かしていた。営業部から頼まれていた顧客の推移をまとめた資料作り、これを今日中に仕上げないと明日営業部から怒られる。 「お疲れ。まだやってるのか」  顔を上げると、缶コーヒーを手にした男の人が真横に立っていた。 「あ……お疲れ様です、林田(はやしだ)さん。すみません、資料もうすぐ出来ますから」  営業部の林田(じゅん)さん、営業部のエースの1人だ。寡黙で苦手だという人も多いけど、私は林田さんに限らずだけどあんまり話しかけたり、話しかけられたりしたことはなかったので、声をかけられたことに驚いたくらいだ。だけど、わざわざ私に話しかけるということは早く資料が欲しいということだと思い、頭を下げた。 「飯島さんは仕事が早いと聞いていたんだけど、もしかして他に抱えてる仕事あったかな」  思わず手を止めて見上げてしまった。営業部から仕事が早いだなんて評価を受けているとは思わなかったし、営業部の人は何かと雑用を押し付けては遅いだのミスが多いだの苦情を投げつけることはあっても、そんなふうに仕事状況を心配されたことはなかった。……いや、それとも遠回しに仕事が遅いと言っているだけなのだろうか。 「あ……すみません、急に急ぎの仕事押し付け……じゃなくてお願いされてしまったもので。でも今日中には終わらせますから」  私の言葉に林田さんはクックッと笑い声を上げた。 「飯島さん、だいぶお疲れだね。他の人の作業を押し付けられたんだろう? 最近は露骨すぎて外から見てても丸分かりだよ」  やってしまった、気を張っていたつもりだったのに。言葉の端々に不満が漏れ出てしまうようじゃ、いつ西岡さんに見つかって怒られるか分からない。私は慌てて違うと言わんばかりに手を横に振った。 「いえ、そんなんじゃないです。私の仕事が遅いだけですから」
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