01. 驚きの提案

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 林田さんはビールをグイグイ飲みながら私の方に目を向けた。 「昼食べてないって体調悪いってことじゃないんだよな。そんなに忙しかったのか?」  私はお通しの春雨サラダをつまみながら少しだけ頷いた。 「体調は問題ないです。午後からの打ち合わせ資料、直しが入っちゃって。修正依頼が来たのが昼前だったので食べる時間取れなかったんです」  営業部は絡んでいないと思ったのに、林田さんも参加していたのか呆れた声を上げた。 「宴会部との打ち合わせだろ。でもあの資料、作ったのは西岡さんじゃなかったのか。どおりでよく纏まってると思った。でも、それなら作るのも直すのも西岡さんがやるべきじゃないのか。何で飯島さんがやってるんだよ」  頼まれるのも、代理で作るのも当たり前のようになっているので、今更おかしいと言われてもどう反論していいか分からない。 「まあ、適材適所で動いただけですよ。西岡さんも忙しそうだったんで」  当然ながら嘘なんだけど、ここで下手なこと言って西岡さんたちの耳に届いたら何を言われるか分からない。不満を顔には出さないようにしたつもりだったんだけど、林田さんはビールを置いてこちらに向き直った。 「飯島さん、今のままでいいの? 周りから辛く当たられて、1人残業して。昼に飯島さんが必死に資料作りしてる間に西岡さんたちは食堂で優雅に今日の合コンの打ち合わせしてたんだぞ。最近特に彼女たちの行動は酷すぎる。飯島さんは他の会社に転職するつもりはないの? 君なら何処に行っても十分にやっていけると思うんだけど」  他の会社……そんな事ができれば苦労はしない。何も知らないのに簡単に転職なんて言わないで欲しい。そんな思いを沸々とたぎらせながら林田さんを睨みつける。 「私のことなんて放っておいてくださいよ! 私はどうしてもこの会社で仕事をしなきゃいけない理由があるんです。どんなに辛くてもまだここを離れられないんですよ」  思いの外アルコールがまわっていたのか、思った以上のきつい言い方になってしまったことに言い終わってから気が付いた。 「……す、すみません。言い過ぎました」  俯く私の顔を林田さんが覗き込む。
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