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07. トラブルは再び
本社に呼び出されてから1週間程が経った。何だか日に日に本社に私の居場所が無くなっているような気がして不安が募ると共に、今いる場所の居心地の良さを強く感じるようになってきた。
井上課長が環境改善を考えるとは言ってくれたけど、明らかに部内での嫌われ者になっている私が管理部を離れるしか打開策はない気がする。淳さんに相談したらどう動いてくれるだろうか。いやその前に今の淳さんは私のために動いてくれるのだろうか。漠然とそんな事を考えていた時、レジに立つ私にお客さんが声をかけてきた。
「林田沙耶香さん、ですよね。今日お話できませんか? 少しだけでいいんです」
私は結婚してからも職場では姓は変えずに飯島のままでいる。私を結婚後の姓である林田で呼ぶ人なんて病院や銀行などの公共施設以外では見たことがない。この人が誰なのかはわからないけれど嫌な予感だけが頭の中を駆け巡っている。
私は横にいる遼太さんに視線を向けると、遼太さんは小さな声で「いいよ」と頷いてこちらにやってきた。
「今日忙しくて昼休憩30分しか取ってないでしょ。今なら30分くらいは大丈夫だよ」
私は遼太さんの言葉に甘えてエプロンを外した。アイスコーヒーを2つ持って端の席に女性を案内する。
「えっと、まだあなたの名前聞いてなかったと思うんですけど、どちら様でしょうか」
「申し遅れました、古坂晴香と申します。いつも淳くんがお世話になってます」
名前に聞き覚えはなかったけど、どこかで見たことがあるような気がしていた。淳さんの関係者……が何で私のところへ?
「そうですか。で、今日はどのような用件でしょうか」
古坂さんはアイスコーヒーをブラックのままひとすすりすると、満面の笑みで口を開いた。
「単刀直入に言いますね。淳くんと別れてほしいんです」
唐突過ぎて最初は何を言っているか分からず、必死に理解しようとしているうちに、相手の女性をどこで見たのかを思い出した。そう、家の前で淳さんと一緒にいた人だ。
「あなたは……淳さんの不倫相手ということで間違いなかったでしょうか」
不倫、を強調することで後ろめたさを少しでも持って欲しい、そう思ったのに古坂さんは全く悪びれた様子を見せなかった。
「ええ、そうですよ。でも、あなたにとやかく言われたくはありませんね。あなた淳くんに言われて無理矢理結婚させられたんでしょ? 偽装結婚、だけど籍は入ってるんでしたっけ。とにかく愛のない結婚なんだから、手放したって惜しくないでしょ。だったらさっさと別れてくださいよ、淳くんのために」
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