07. トラブルは再び

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 バレてる? 契約結婚だって知ってるの? 淳さんが言ったんだろうか。今すぐに淳さんに確認したいくらいだった。だけど、何も分からない状況で私ができることは1つしかない。私は湧き上がってくる不安や戸惑いといったものを胸の奥に押し込んだ。  普段の自分じゃとても出来るような事じゃないけど、サンプルは西岡さん。彼女を思い浮かべて上から目線の表情を作る。 「淳さんが今すぐ別れたいから私を説得して欲しいって言ったんですか? 言わないですよね。淳さんと私はそんなに簡単に切れる間柄じゃないんですよ。あなたが淳さんに言っても別れてくれないから、私に揺さぶりをかけて私から別れを切り出すように仕向けようとしたんでしょ? だけど、私だけにこっそり会いに来て、私が淳さんに不信感を持つようなことを吹き込む、そんな卑怯なやり方にはのりませんよ」  今、私たちの契約結婚は微妙なものになっているのは間違いない。だけどまだ契約が破棄されたわけでも、終了したわけでもない。淳さんが古坂さんにどういう事を話したのかは分からないけど、私は妻としての態度を取るべきだろうと思った。ここで契約結婚を認めると何かが破綻しそう、そんな気がしたから。だけど古坂さんはそんなの気にしない、とばかりに笑顔を浮かべている。 「随分自信あるのね。でも、少なくとも今の彼の心は間違いなくあなたには向いていない。私に向いてるわ。今の状況をズルズルと続けていてもあなたが辛いだけなんじゃないの?」  これについては、正直反論できない。私はもう何日彼と話をしていないんだろう。痛いところをつかれたことで目の奥が熱くなって、涙で視界がぼやけ始めたのを下を向いて何とかこらえる。今泣いたって彼女が喜ぶだけ、それだけは嫌だ。必死で涙をこらえながら、目の潤みが落ち着いてきたのを感じて顔を上げた。 「本気で別れてほしいのなら淳さんも一緒に連れてきてください。こんな状況であなた1人に何を言われても私は屈しません。すみません、仕事があるんでこれで」  私は立ち上がると、古坂さんの顔を見ることもなくアイスコーヒーを持って奥に戻った。とりあえず1人になるまでは泣いちゃ駄目だ。小走りに戻ってそのまま厨房の奥に座り込んだ。1人になると気持ちが緩んだのか哀しみの波が襲いかかってきた。
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