01. 驚きの提案

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「いや、余計なお世話だったよな、ごめん。でも、何でそこまで頑なにこの会社にこだわるんだ? 理由、聞いてもいいか?」  今までこんなに親身に話を聞いてくれる人はいなかった。いや、井上課長はそれなりに話も聞いてくれたんだけど、ここまて踏み込んで来ることはなかった。私が距離をおいているからかもしれないけど。 「詳しい話は出来ないんですけど……生きる目標? みたいなものです。とある人に借りたお金を返さなきゃいけなくて、そのお金はこの会社で働いたお金にするって決めたんです。だから、そのお金が貯まるまではこの会社にい続けたいんです」  核心を話すことができないせいで中途半端な話になってしまっていることは分かっていた。だけどこれが話せる限界だった。 「分かった。詳しいことは聞かない。だけど、今のままだと体壊すぞ。だから……俺と取引をしないか? さっき言ってた提案ってやつだ」  取引? 急に飛び出した言葉に私はビールを手に持ったまま首を傾げた。 「その前に、さっきの話に嘘はないか? 今彼氏いなくて、必要ともしていないって」  何で今その話を? とも思ったけど、ここまできたらある程度は話しちゃっていいかなという思いにもなっていた。 「私は母とふたり暮らしだったんです。母は私の父にあたる人に振り回されてばかりでした。それなのになかなか縁が切れなくて。そんな父を見てきたので、男の人と一緒にいて幸せになれるイメージが持てないんです。だから結婚も恋愛も興味はありません」  ……ちょっと重く言い過ぎたかな、と思ったので、最後に付け加えた。 「まあ、でも今それなりに楽しく過ごせてはいますから。生きていく上には何の問題もないです」  林田さんはしばらく考え込んでいたと思ったら、頷いてこちらを見て、真剣な表情で呟いた。 「飯島さん、俺と結婚しないか?」
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