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「すみません、やっぱり沙耶香さんは真面目だなと思って。つまり基本的にこうして距離詰めたり抱きよせたりできるのは旦那さんだけってことですよね」
なんでそこで淳さんが出てくるの? 意味が分からず首を傾げてしまった。淳さんに抱きついたことなんてそう言えば一度だって無かったな。まあ、契約妻なんだし当たり前なんだけど。
「夫とも手を繋ぐのは平気だったけど、それ以上に近づいたり触れたりしたことはないから分からないけどそうなるのかな」
私の言葉に朔斗くんは目を見開いていた。
「えっと……もしかして沙耶香さんって政略結婚とかお見合い結婚とかそういう特殊な結婚したんですか? 結婚して1年も経ってるのにその距離の詰め方は珍しいと思うんですけど……」
そこでようやく気付いた。結婚して1年も経ってるのに手を繋いだ程度の夫婦が何処にいるんだって話だよね。あまりにも気を抜きすぎて注意力が無くなっていたのかも。
「あ、えっと。特殊……ではあるかも。ごめん、詳しくは言えないんだけど。あ、朔斗くんのお陰でサンドイッチ食べられたし元気出たよ。ありがとね」
これ以上は追求しないで欲しい、そんな私の気持ちが伝わったのか、朔斗くんはそれ以上何も聞いてはこなかった。こういうところにも優しさを感じる。
「そうなんですね、分かりました。もし気持ちが落ち込んで辛い時はいつでも胸でも肩でも貸しますから言ってください。よく分からないですけど俺は苦手意識が他の人より薄いみたいなんで」
「ありがとう。でも、こんなことしてるとまた創祐くんに怒られちゃうよね。どんなに特殊でも私は既婚者だから。その辺の線引きはちゃんとします」
「創兄のことは気にしないでください。ちょっと過保護すぎるところがあるんで。でも、俺も割と女性と至近距離で接するのは苦手なんですけど、沙耶香さんは不思議と平気なんです。何か嬉しいです」
そう言えば朔斗くんは昔アルバイトの子に言い寄られたりして嫌な経験してたんだっけ。私と似たような境遇で、でも私は平気だって言ってくれたのは純粋に嬉しかった。
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