ある日の会話

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ある日の会話

ある休日 静夫に潤子からlineが来た。 “今日の予定は? たまには、ふたりでゆっくり食事しない? ランチでも夕食でも静ちゃんの都合の良い方で。” “課題を終わらせたいから、夕食にしよう。 出掛けるのとデリバリー、どっちにする?” “テイクアウトできる日本食レストラン見つけたから、 夕方出掛けてそこでテイクアウトしない? メニュー考えておいて。” と、日本食レストランのHPの写真とURLが送られてきた。 “了解 頑張って課題仕上げるよ。 夕方、また連絡する。” 「よし、終わった! さて、メニューはどうしようかな?」 メニューが決まると、 静夫は潤子にlineした。 “こちらは、準備OK👍 何時に出掛ける?” “一回降りてきて。 注文してから出掛けよう。” “そうだね。じゃ、そっちに行くね。” ピンポーン 「いらっしゃい。入って。 静ちゃんは、何にしたの?」 「今日は久しぶりに飲みたいなと思って、 このおつまみセットと野菜の炊き合わせと〆のお握りにしようかなと思うんだけど、飲んでもよろしいですか? 奥様。」 「へへへ。 実は私も少し飲みたいなって思ってた。 この間出した課題、良い成績もらえたから、自分にご褒美? 私もおつまみセットとあと、和風サラダかな。」 「じゃ、注文して、出掛けますか?」 手を繋いで、ゆっくりと散歩をするように歩く。 「こっちに来てから、 こんな風にふたりで歩くの初めてだね。」 「日本に居た時だって、お互い忙しかったから、ほんとに初めてじゃない?」 「そう言えば、そうか。 夕焼けが綺麗。あ、あれ一番星?」 「そうかな。」 「静ちゃん、思い切って来てくれて、 ありがとう。 やっぱり側に居てくれると安心だし、 嬉しい。 離れてたら、こういうことは、出来ないもんね。」 「俺は、そんなに一大決心して来たわけじゃないよ。潤から留学の話聞いた時に後から行くって決めてたし。 やっと出逢ったのに、離れるなんて選択肢は初めからなかったから。 ただ、準備があるから後からになっただけで。」 「そうなんだ。 じゃ、これからもずっと一緒だね。」 「当然!“約束の人”だから、潤は。」 ご褒美だから、シャンパンにした。 「ちょっと頼みすぎたかな?」という量だったし、早く食べたいから、 帰りはタクシーで帰った。 静夫の部屋で食べることにして、 料理を並べる。 「やっぱり、頼みすぎたかな? 美味しそうだから、つい、あれこれ追加しちゃったし。」 「残ったら、明日の俺の食事になるだけだから、大丈夫。 さ、食べよう。 はい、奥様、お注ぎしますよ。」 「ありがとう。」 「じゃあ、留学前半頑張りましたと 後半も悔いなく頑張ろうということで、 乾杯🍷」 「静ちゃん、お握り半分貰ってもいい?」 「いいけど、先に食べるの?」 「空きっ腹に飲むと、弱いからすぐに酔っ払って眠くなっちゃうの。」 「家だから、寝ても良いのに。」 「せっかく久しぶりにゆっくり話せるのに、寝たらもったいないもの。」 「そうか。じゃ、はい、お握り。 お握り食べながらシャンパン飲む人、 初めて見たかも。」 「笑う?でも、家だから、いいの。 美味しいね。ちゃんとした和食久しぶり。 食材は売ってるから、自分で作れば出来るんだけどね。 買い物や料理の時間ももったいなくて、 ハウスキーパーさんに頼んでるから、 どうしても洋食になるものね。 パンは好きだけど、たまにご飯と味噌汁が欲しくなるときがある。」 「俺は、ご飯はまとめて炊いて、冷凍してるよ。 味噌汁はインスタントだけど。 あと、醤油と海苔があれば、おかずは洋食でも少し醤油をたらしたりすれば、だいたいいける。 日本から、おかずの冷凍食品買おうか?今、一人分のおかずセット色々出てるじゃん。食事は大切だよ。 昼は軽い食事になっても仕方ないけど、夜くらいしっかり食べないと。 身体が資本だからね。」 「でも、送料が高いでしょ。 贅沢な気がして。」 「ブランド物のバックを欲しがるわけでも、アクセサリーを欲しがるわけでもないのに、そのくらいの贅沢させてあげるくらいは、稼いでいるんだけどな。 よし、決めた。冷凍専用のストッカー買って、日本からおかずセットを取り寄せる。 一週間に一度、潤の部屋の冷凍庫に持ってくから。あと、お米もね。潤一人だったら、1か月5㎏もあれば充分だろ? そしたら、洗濯と掃除だけだから、 ハウスキーパーさんの回数が減らせるよね。」 「なんか…、そういうの、普通奥さんがやる事だよね。ありがたいけど、申し訳ない感じ。」 「いいの。 入籍したのは、潤に主婦をさせるためじゃないって、初めに言ったろ? いつかは、俺が潤に支えてもらう事になるかもしれない。けど、今は潤が思い切り勉強できるように俺がここに居るんだから。甘えて下さい。」 「はい。 あのさ…関係ないけど、聞いても良い?」 「何?」 「近藤美世さんって、友だち? 初めてバスで声かけてきたとき、言ってたよね。」 「気になってたの?」 「うん。ひょっとして、好きだった人?」 「高校のクラスメート。 大人しい子で、俺の親友が彼女のことが好きでさ、でも、見てるだけで声も掛けられないシャイなやつだから、 よく間を取り持つために声を掛けたりしてた。 でも、ただの友だち。 大学で、彼女に似た人がいて、でも別人だった。 一年先輩だったし、彼氏もいるみたいで。 その人は、とても明るくて、顔は近藤美世にそっくりだったけど、性格は真逆だった。 親しくなりたくて、同じサークルに入ろうとしたりしたんだけど、いつの間にかいなくなった。大学を辞めたのか、留学でもしたのか、分からない。 俺は彼女のこと、好きだったのかもしれないけど、名前も聞けないまま終わった。 その後、俺も在学中にネットビジネスの会社を立ち上げたりして、忙しくなったから、それきり忘れてたんだ。 潤にあの日出逢って、思い出したんだ。 でも、名前も知らないし、声を掛ける口実が近藤美世しかいなくて、ついその名前を出したんだ。」 「近藤さんと静ちゃんの親友は、どうしてるの?」 「親友だったやつとは、大学が別だったから、しばらく連絡もとってないな。 でも、大学卒業して、ふたりは結婚したらしい。」 「静ちゃんは、ほんとに近藤さんのこと好きだった訳じゃないの? 親友に遠慮してたとかじゃなく?」 「気になるというか、敢えて言えば妹みたいな感じ?ふたりとも大人しくて、親友も見てるだけで声も掛けないし。 まぁ、近藤は、俺の事が好きだったみたいだけど。 実は、告白された。 でも、友だちとしか見られないから 付き合えないって断った。 その後色々あって、親友は真面目で良いやつだし、勉強も出来るし、彼の良さが分かって付き合いだしたんだけどね。」 「あの時、どうして声を掛けたの? 思い出したって事は、その好きだった先輩か確かめる為?」 「潤は、どうして振り向いた?」 「視線を感じたの。 誰かにじっと見られてる。けれど、嫌な感じじゃなくて、なんていうかな、 誰なのか確かめたくなる感じ? だから、振り向いたの。 そしたら、静ちゃんと目が合って、 ドキンとした。 声を掛けられて、でも、違う名前を言ったから、私を見てたんじゃないんだって、 少しがっかりして、降りなきゃ行けない場所に着いてしまったから、どうしようもなくて。 静ちゃんは、その先輩でなくてがっかりした?」 「いや。 潤が振り向いて目が合った時、胸が高鳴った。 探していた人を見つけたと思った。 でも、まさか『あなたを探してました』とは言えないたろう? だから、あんな風に声を掛けるしかなかったんだ。 思い出したっていうのは、その先輩のことじゃなくて、好きな人に出逢った時の感覚、かな。」 「でも、顔は似てても話してもいないのに、どうしてそう思ったのかしら?」 「歌を口ずさんでいたろう? あの曲、近藤も好きだったけど、その先輩も好きな曲で、よく口ずさんでた。 その様子がそっくりだった。 それで、その先輩に出逢った時のトキメキを思い出したんだ。 だいたい先輩だったら、俺より年上なんだし、後ろから見ても、高校生か大学生にしか見えない潤のこと、先輩かもしれないなんて思わないよ。 それと、近藤は、そういうことはしない子だったから。 俺は、何度も転校したりして、友だちを作るのは慣れてたし、女子の友だちも結構いたけど、付き合った人はいないんだ。潤が初めてなんだよ。 信じられないかもしれないけど。 これで、気になってたことは解決した?」 「う、うん。」 「潤がまさか、近藤美世に嫉妬してたとはなぁ。」 「嫉妬なんかしてないから…。 ただ、気になっただけ。誰なのかなって。」 「そう? でも、そういうの、嫉妬っていうんじゃない?ずっと気にして聞けなかったって。 俺としては、嬉しいけど。」 「いじわる…」 「安心して。 昔も今も、胸が高鳴るのは潤だけ。 その先輩のことが気になったのだって、 考えたら、明るくてよく笑う感じが潤に良く似てたからなんだと思うよ。 これからも一緒に居たいのは、潤だけだから。」 おわり
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