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そんなある日のことだ。
委員会の仕事が長引き、終わったのはすでに十八時を回っていた。とっくに、香苗と翔馬は帰っている。
涼介は急いで学校を出た。駆け足で家に向かうが、信号で足止めをくらう。
その時、背後から声を掛けられた。
「あの……ちょっと聞きたいんだけど……」
振り返ると、重そうな荷物を持った年配の女性がいた。上品そうな雰囲気と、持っている荷物の大きさとのアンバランスさに、涼介はなんとなく既視感を覚える。けれど、女性の顔には見覚えはない。首を傾げると、それを質問に対する答えだと思ったのだろう。
女性が口を開いた。
「あのね。娘の家に遊びにきたんだけど、道に迷っちゃって。ここから駅までの道を教えてくれないかしら?」
不安そうな顔をする女性を見れば、答えないわけにはいかない。口頭だけでは、わかりづらいと思い、涼介は鞄からノートを取り出した。何も書いていないページを開き、一枚破ると、そこに簡易的な地図を描いた。
「はい。これなら多分、道に迷うことなく、駅まで行けると思います」
「まあ! 丁寧にありがとう」
女性が丁寧に頭を下げ、立ち去ろうとする。
その瞬間、涼介の頭の中に、大型トラックが突っ込むシーンが過る。
なんとなく嫌な予感がする。涼介は咄嗟に女性を呼び止める。
駅と涼介の家は真逆だ。けれど、徒歩十分程度の距離なので、涼介は駅まで荷物を運んであげると申し出た。
「いいえいいえ。道を教えてくれただけ十分よ」
「でも、その荷物重そうですし」
「こうみえて、結構力持ちなのよ?」
「それでも、両親から人に優しくしなさいって言われているので……」
遠慮する女性をなんとか説き伏せ、涼介は駅まで送ってあげた。
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