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帰宅したのは十九時過ぎで、夕飯時だ。
香苗も翔馬も勉強会を終えているだろう。涼介はスマートフォンを取り出し、帰宅したことを二人それぞれにメッセージで知らせる。すると、すぐに香苗から返事が届いた。
『夢日記。集中力が上がったかもしれないけど、逆に危険だっていう話もあるみたい。だから、今すぐやめた方がいいよ』
いきなり夢日記のことを言われ、涼介はポカンとする。それからすぐに、理由を訊ねた。
『なんで?』
これにもすぐに返事がきた。
『なんかさ。私の友達の知り合いに、夢日記をつけていた子がいたんだけどさ。最初のうちは良かったんだけど、だんだん感情の起伏が激しくなって、すぐにキレるようになったんだって』
『それ、受験のストレスだろ』
『うん。私もそう思ったんだけどさ。ちょっと気になって調べてみたの。そしたら、夢日記をつける危険性っていうサイトがあってさあ……』
そこで、ゾッとしたような顔をしたクマのスタンプが送られてきた。肝心なところでメッセージを終わらせる香苗に涼介は苛立ちを覚えた。
『それで? なんて書いてあったんだ?』
香苗を急かす。すると、すぐにメッセージが届いた。
『精神が錯乱したり、夢と現実との区別がつかなくなったり……夢がだんだんリアルになったりするんだって』
少々オカルトチックな内容だ。けれど、たかが夢の内容を書いただけで、そんな風になることは考えにくい。
『あの成績優秀で真面目な翔馬がずっとやってるって言うんだぜ? そんなことあり得ないだろ』
まったく信じない返事をする。けれど、香苗はなおも涼介にやめるようにいってくる。
『そうかもしれないけど、万が一ってこともあるじゃん。暗記ものなら青いペンで書くといいっていうし。夢日記はやめたほうがいいよ』
『なんで香苗はそんなに夢日記のことを否定するんだよ』
『……実は、さっき翔馬に告白されて断ったの』
『は? マジかよ……で、それと夢日記になんの関係があるんだ?』
告白について詳しく聞きたいところだが、涼介は本題を優先した。
『もともと翔馬は私と同じで光越学園が第一志望だったの』
『え? でもあいつ、常光高校が第一志望だって言ってたよな?』
『翔馬はさ、光越学園よりも偏差値の高い学校にも行けるのよ。それなのに、私と同じ高校を受験しようとするから、薄々そうなのかなって思ってたんだ。好きな人と同じ学校に行きたい気持ちは私にもわかるし』
香苗の遠回しな告白に、涼介は頬を染めると同時にハッとなる。
香苗が翔馬の気持ちに気がついたのと同じように、翔馬もまた、香苗の気持ちに気がついていた可能性は十分ある。
『もしかして……翔馬は俺のことを排除したくて夢日記を勧めたのか?』
『うん。できれば、そうじゃないと信じたいけどね』
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