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メッセージのやり取りを終えた涼介は、眉間に皺を寄せた。
翔馬が香苗を好きだなんて、まったく気がつかなかった。けれど、思い返してみると、翔馬はむかしから香苗に甘い。夢日記の効果が集中力や記憶力が上がるだけなら、真っ先に香苗に勧めていたはずだ。
しかし、翔馬は香苗が夢日記をしようとするたびに、遠回しにやらないように仕向けていた。
「誰だって好きな子には少しでも危険なことはさせたくない。逆を言えば、危ないことを勧めるほど、翔馬にとって俺は邪魔者だったのかもしれないな」
幼い頃から仲がいいと思っていた相手なだけに、ショックは大きい。
「精神に異常をきたしたり、夢と現実の区別がつかなくなる、か……」
ポツリと口から洩れた言葉に、ふと、今まで夢日記を一度も読み直していないことに気がついた。気になったら即行動派の涼介は、すぐに夢日記を読み直す。
大地震に受験失敗、落下に常夏のハワイでバカンスと続く。
「とくに何もないな……」
巨大な化け物に襲われる夢も、誰もが一度は見たことのあるものだろう。
頬杖をつきながら、ページをめくっていた涼介は、三日前のページで手を止めた。
『学校から帰る途中、老人に道を尋ねられる。大きな荷物を持っていたが、道だけ教えて別れる。いつもと同じ道を歩く。人気のない場所に差し掛かったところで、翔馬に滅多刺しにされる』
書かれてある内容は、つい先ほどの出来事とよく似ている。
「なんでこんな強烈な夢を忘れていたんだろう? いいや。もしかしたら、頭のどこかで記憶していたからこそ、俺は無意識に、道を教えたあとの行動を変えたのかもしれない」
夢日記を読みながら、涼介は夢と現実での自分自身の行動と結果の違いを再確認した。
「もしもあの時、駅まで送っていかずにそのまま帰宅していたら……」
サーッと血の気がひいていく。
ふらりと立ち眩みをしたタイミングで、スマートフォンがメッセージの着信を知らせた。
恐る恐る確認する。
『いつもの道で待っていたのに、なんで通らなかったの?』
翔馬からのメッセージに、涼介は固まったまま動けなくなった。
【了】
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