月夜に運命をみる者達よ

4/8
前へ
/8ページ
次へ
「フウ君って、満月の夜は決まって外を歩いているんだね」  そも、あの夜フウが風深を助けてくれたのは、彼が満月の深夜に町を歩いていたからで。それ以降の再会だって、彼が毎回のように同じ行動を取っていたからこそだ。 「師匠からの指示で、この街の地脈に流れる魔力の性質を調べてる。俺はこの赤い髪のせいで、自分自身の魔力で魔法を使えないからさ」  この世界では、自力で魔法を使えない人間は、大地に宿る魔力を借りて魔法を操る。満月の夜は、月の影響で地脈の魔力が上昇する。さらに深夜ともなれば人気がなく静かで、魔力を感知するには好条件となる。 「赤い髪のせい?」 「詳しく話しても異時空のカザミには意味わかんねーと思うけど……俺は生まれつき神罰を負ってて二十歳まではそれを封印で免除してもらってる。その証拠がこの赤い髪なんだよな」 「……神罰って……?」 「赤い髪の封印がなくなったら前世の自分が犯した罪で神様に裁かれることになってて、その罰っていうのは死んだ方がマシって思うくらいの苦行なんだってさ。そんな目に遭いたくないから、回避出来る手段を探したくて。この街に住んでる、世界一有名な魔法使いに弟子入りさせてもらったんだ」  お互いの世界へ行き来するために風深と月光竜が待ち合わせするのは、フィラディノートの街を囲う煉瓦の城壁を出た外の世界。手入れのされていない荒涼とした草原がそこに広がっている。 「ど、どうしたんですか? その顔……」  この晩は月光竜が彼女より先に待ち合わせの場所に来ていて、その顔がぼこぼこに腫れ上がっているのを見て風深はうろたえる。 「あなたの暮らす町を歩いていて、数人の少年に囲まれて路地裏へ行きましたら、このように」  あの時、私はフウ君に助けてもらえたけど、この人は誰にも助けられなかったんだ……自分に非は一切ないというのに、風深はなぜか申し訳ない気持ちになる。 「いやぁ、一歩進めば先に何が起こるかわからない世界を歩くって、なんて楽しいんでしょう! あ、私にマゾヒストの気質はありませんので誤解のなきよう」 「はぁ……」  笑顔満面でそう言われても説得力を感じないが、それよりも、風深には彼に訊ねたいことがあったので黙殺する。 「あなたには、フウ君の未来が見えているんですよね……彼が、その……神罰? というのを受けてしまう未来を、変えることは出来ないの……?」 「あなたの視ている『未来』と、私の視ているのは似て非なるもの。私が視ているのは未来ではなく『運命』なので、絶対に変わらないのですよ」  風深が視る未来は、彼女の行動によって変わることがある。もし、私の目がこの世界でも未来を視ることが出来たなら……フウ君の未来を視て、彼の結末を変えられたのかな。風深は、この世界で自分が人の未来を視られないことを無邪気に喜んでいて良かったのだろうか……そう、自問自答してしまうのだった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加