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少しだけ気まずいままフウと別れて、風深は街の外の草原に佇んで月光竜の来訪を待っていた。
「今夜は興味深い知見を得られましたよ。あなたの世界の七曜というのは、太陽と月を同列に扱っているそうじゃないですか。それも、断罪竜様と母神竜様を差し置いて月を加えるなんて。どうしてこのようになったのでしょうね?」
「……その、なんとか竜様っていうのは、月光竜様のお友達ですか?」
「ああ、失礼。あなたの世界では天王星、海王星と呼称されていましたね」
「なんとか竜様はよくわからないけれど、私の世界では太陽と月は同等に扱われがちで……」
「何故でしょう? 太陽はこの世の生態系を成り立たせる源であり、この星の付属物に過ぎない月とでは格がま~~ったく違うではありませんか」
「それでも、他の星々と比較したら、地上から月はうんと大きく見えるから……昼は太陽、夜は月が主役みたいな感覚っていうか……」
「なるほど、なるほど。地上の人々からどう見えているかが重要であって、実際の星の大きさ、本質は関係していないのですね」
その理屈を参考にするならば、天王星と海王星は肉眼で見えるわけじゃない、外惑星。七曜を考えた遥か昔の人々はその存在を知らなかったのだから、そこに入れなかったのも自然な流れだろう。月光竜は楽しげに「いやはや、勉強になりますなぁ」と感心しているが。風深からしても今まで気にしたこともなかった知見を得られたような気がした。
次の満月に再会した時、フウは風深を見ると開口一番、こう言った。
「なあ。せっかくたまにしか会えないんだし、つまんない話ばっかしてないで楽しく過ごさないか?」
「……うんっ!」
「あ~あ。こんな深夜しか会えないんじゃなかったら、どっか店でも入って楽しめそうなのになー」
この世界での若者の遊びをそれなりに知っているフウにとっては物足りなさそうだったけど。自分の世界でもいつもひとりぼっちだった風深にとっては、ただ夜道をふたりで歩くだけでも楽しかった。
風深の世界で冬が終わり、春、夏、秋と巡る。満月の度に彼に会いに行く。風深は、満月を見上げる瞬間が楽しみになった。抱いたぬいぐるみに振動が伝わってしまいそうに、心臓が高鳴っていた。
ある晩。いつも通りに世界を移動したけれど、フウに会えなかった。今まではフウがいてくれたから怖くなかった、知らない世界の街の夜歩きが一気に心細くなる。最大限注意を払いながら、フウを探す。けれど、やっぱり彼を見つけることが出来なかった。
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