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「謝る必要はありませんよ。私は最初から知っていました。あなたがそう選択することを。この運命視によって、見ていましたからね」
月光竜は白金の色が窺えぬほどに目を細めて、極めて満足そうに。そして、心からの感謝を込めて微笑んだ。
「たった一年間、満月の夜だけという限られた時間であったとしても。他ならぬこの私に、未来の視えない異時空の旅を夢見させてくださって、ありがとうございました。あなたの世界の月に愛されてしまった、哀れなお嬢さん。いつかあなたが、あなたの世界の太陽の下へ連れ出してくれる誰かと出会えますように」
微力ながら、その未来に多幸があるように……この世界からお祈りしています。そう言って恭しく頭を下げる月光竜の姿を最後に見届けて、風深は自分の世界へ帰ってきた。
風深の視線の先には、相変わらず……目を焼くように煌々とした満月の白い光が、射し込んで。その眩しさに目が痛んだから、……彼女は少しだけ、泣くことにした。腕の中には、抱きつぶしてしまいそうに形を歪めた、まんまるの雪だるまのぬいぐるみ。歩道には雪が積もり、ブーツ越しの足に冷たさを感じる。まるで、全てが始まったあの月夜に帰ってきたかのように錯覚する。夢のような夜だったけれど……彼らとの遭遇は確かな現実だったと、風深は信じていた。
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