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転校してから三カ月近くが経った。
一志と蓮のおかげで、すぐにクラスメイトたちとも馴染むことができた翔琉は、充実した学校生活を送っている。
その中でも、僅かな好奇心と同情から入部した歴史部の活動は、翔琉にとって一番の楽しみになっていた。
部活でやる内容は、月に二回ある部室でのミーティングで決める。部員それぞれが、やりたいことを提案するのだが、なんでもかんでも採用されるわけではない。
きちんと、目的や意義をプレゼンし、最終的に顧問である重岡が決定するという流れだった。
本日のミーティングは夏休みの活動についてだ。
翔琉が合宿旅行を提案すると、一志と蓮が間髪入れずに賛成した。
期待に満ちた三人の眼差しを受けた重岡が、渋い顔をする。
「費用がなあ……」
重岡が「合宿に連れて行ってやりたいのは山々なんだけど、部費で賄えるもんじゃないしな」と唸る。
「そこで朗報です!」
翔琉の明るい声に反応し、三人が飛びついた。
「え? なんだ?」
「何かいい案でもあるのか?」
期待に満ちた目をする三人に、翔琉は頷いた。
「うちのじいちゃんが住んでいる島に『ノモルス遺跡』っていう遺跡があるんだ」
「ノモルス遺跡?」
一志と蓮が興味津々といった様子で翔琉の話にくいつく。
「そんな遺跡、聞いたことないぞ」
重岡まで前のめりになる。翔琉はそこで遺跡について説明をする。
「古くから伝わる秘祭や奇祭、その村から絶対持ち出すことの出来ない秘物って、今もあるじゃないですか」
「確かにな」
「家康の黄金の遺産だって、未だに発掘されていないし」
翔琉の言葉に、みんなが頷く。
「ノモルス遺跡もそれと同じようなものです。島と本土を行き交う人のほとんどが、島民か島民の身内なので、公にされていないんですよ」
公にされていない遺跡というキーワードに、みんながゴクリと唾を飲み込む。
「知られざる郷土史や遺跡、文化に触れるチャンスってことか」
知識欲と好奇心を刺激された重岡が、金銭面と天秤をかけて心を揺らしている様子が伝わってくる。
顎に手をあてて悩む重岡に、翔琉は、さきほど言った台詞を繰り返す。
「ですから『朗報です』と言ったでしょう?」
そこで重岡がハッと顔をあげた。翔琉は朗報の詳細を口にする。
「どのみち、夏休みはノモルス祭があるから、祖父母の家に行くんですよね。そのついでに、歴史部の合宿について相談したんです」
ノモルス祭は島民総出で行われる年に一度の島のビッグイベントだ。七日間に渡って行われるのだが、翔琉は毎年、最も盛り上がる初日を狙って必ず参加している。合宿の許可が得られるかどうかは別として、友人と恩師を連れてきたいと言えば、「無駄に広いだけで何もない家でよければ、数人ぐらい泊めてあげる」と言ってくれたと話す。
しかも、島への連絡船は無料で乗船させてもらえることも付け加えた。
「でもなあ……獺越の家族に負担が……」
「一昨年や昨年も、前の学校の友達を連れて、遊びに行っているんで大丈夫ですよ。むしろ、祖父母は広い家に二人っきりで過ごしているから、大勢で遊びに行くほうが喜びます」
なおも躊躇する重岡を説得するため、翔琉は熱弁を奮う。すると、合宿に行きたい蓮も一志も援護射撃をしてくれる。
「合宿旅行がだめなら、俺たちだけで翔琉のおじいちゃんちに遊びに行こうぜ」
「うちは駄目だ。他県への旅行は先生がいないと許可がでない」
「あ、そうだった。蓮の母親、めっちゃ厳しいから、引率者が絶対に必要だったよな。先生、俺たち、ノモルス遺跡をこの目で見たいんだけど……なんとかならない?」
ここでようやく重岡も折れた。
部員三人でハイタッチして喜ぶと、さっそく合宿に向けての計画を進めた。
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