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翌朝。
重岡たちのノモルス遺跡への熱意が届いたのか、真っ青な青空が広がっていた。
朝食を終えると、翔琉は歴史部のみんなをノモルス遺跡へと案内する。
遺跡の前では、明日から七日間に渡って開催されるノモルス祭の準備で多くの人が集まっていた。
島民たちは翔琉たちに気がつくと、人懐っこい笑顔で挨拶をしてくる。
翔琉たちもまた、彼らに挨拶をしながら、遺跡の中に足を踏み入れた。
大きな石を積み重ねて作られた遺跡はところどころひび割れているものの、日々整備されているようで、建造物としての形を保っている。中はがらんとして、人が数百人は入れそうな広さだ。壁はもちろんのこと、床や天井にも不可思議な絵が描かれてある。遺跡の奥の方には花や食べ物がお供えされた祭壇らしきものがある。
翔琉は床に描かれた絵や記号のようなものを避けることなく、まっすぐ祭壇の前まで歩いた。そのあとを足元の絵に気を遣いながら三人がついてくる。
「え? こんなに簡単に遺跡の奥に入っていいのか? 許可証とかは……?」
驚く重岡に翔琉は笑う。
「遺跡と言っても、他の地域でいうところの氏神神社みたいなもんなんですよ」
地域に根差した氏神神社が、大衆信仰として、季節の祭りや様々な行事を行い、その地域の住民が集まる場所として機能しているように、ノモルス遺跡もまた、その機能を果たしているのだと翔琉は説明した。
「日本全国に何万もある氏神神社と、世界でたった一つの遺跡とは価値が全然違うだろう」
重岡のツッコミに、一志も蓮も同意する。すると、いつの間にか、遺跡の前で祭りの準備をしていた島民たちが背後に立っていた。彼らは、にこにことした笑顔で口を開く。
「そんなご大層なものにされたら、あちこちから調査という、名目で遺跡を荒らす人たちがくるでしょう?」
「我々にとっては、ここは遺跡というよりも、この島と島民を鎮守する守り神であるノモルス様をお祀りする神殿ですからねえ。下手に遺跡だと騒がれるほうが迷惑なんですよ」
「昔から、世界各地で王家の墓や文明の遺跡が調査という名前で荒らされ、穢されてきたのは周知の事実ですしね」
「床の絵だって、我々がノモルス様を信じ、感謝している限り消えることはありませんから……だからこうやって、普通に出入りできるんです」
ノモルス遺跡は島民の信仰の対象であることを口々に言う島民に、蓮が目を丸くする。
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