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午後3時。
18階にいた信は、事務的な作業に追われていた。
4時からの会議までになんとか、この作業を終えなきゃならなかった。
旅行会社の主力商品となる企画旅行は、その会社の企画力や営業力が問われるため重大な事案だ。
そのため、年度初めの4月にトップ層を交えて、経営を取り巻く環境や市場の動向、消費者のニーズなども調査し、データを揃えて経営会議を行い、まず経営方針を決める。
この会議は、半期、もしくは四半期ごとに行われ、送客の重点地域、重点商品を決める
経営方針や重点商品が決まると、それを元に企画提案や前年度の顧客からの要望やニーズなどをふまえて、現地の下見や調査を行う。
信も5月は2、3度ほど出張に出向いた。また、海外拠点スタッフからの情報をはじめ、社内各部署、他社のWebサイト、航空会社など、ありとあらゆるところからの情報集めで忙しくしていた。
そして、今は6月も下旬になり、企画担当者達が各々で集めて来た情報や素材を元に企画提案を行う。
去年なら、葵もここにいたのになと信は少し残念に思いながらも会議に参加した。
信の課は全員で13人。今日はそのうち8人が会議に参加していた。
信の課は全員で13人。今日はそのうち8人が会議に参加していた。
日本の海外旅行客に人気の主要デスティネーション(旅行目的地)は1位がアメリカ、2位が中国、3位が韓国、4位台湾、5位ハワイ州、6位タイとなっていてランキング上位の変動はあまり見られない。
特に2位の中国は日本のインバウンドにおいて絶大な影響力を持っており、日本から彼方への旅行客も多い。
訪日旅行者数は世界16位で、中国、韓国、台湾とアジアが占めており、国内における2015年の観光消費は25.5兆円で内訳は国内宿泊旅行者16.2兆円、国内日帰り旅行4.6兆円、海外旅行(国内消費)1.3兆円、訪日外国人旅行3.3兆円、海外旅行(海外消費)2.8兆円となっている。
また、ツーリズム産業が世界にもたらす経済効果は840兆円と言われており、その10%を占めている。
さらにツーリズム関連の雇用者は国内で440万人と出ており、先ほどの消費経済の効果と併せて雇用創出にも大きな影響を与えている。
世界はグローバリズムの真っ只中でツーリズム産業とその未来に大きな期待を寄せていることは間違いなく、日本も紛れもなくその一つだった。
(JATA https://www.jata-net.or.jp/data/stats/2018/pdf/2018_sujryoko.pdf#page=4参照)
そんな日本が本格的に観光立国を目指すようになったのは2007年頃だった。
この頃、1963年に制定された観光立国基本法が観光立国推進基本法に改定された。(2007年1月1日 改定)
国は、国際競争力が強く魅力に満ちた観光地の形成、観光産業の国際競争力の強化および観光の振興に寄与する人材の育成、国際観光の振興、観光旅行の促進のための環境の整備に必要な施策を講じ、総合的かつ計画的な推進を図るために「観光立国推進基本計画」を定めるとしている。
またこの法では、政策の基本理念として「住んでよし、訪れてよしの国づくり」を掲げている。同法の立法過程で2003年4月に取りまとめられた「観光立国懇談会」報告書では、観光の原点は物見遊山にとどまらず、地域の発展に貢献していくことにあるとしたうえで、観光立国に向けた改革の方向性として、「自律的観光」「新しい型の観光」「持続可能な観光」の3点を挙げている。
では、2007年の日本の経済状況を少し振り返ることにしてみる。
2007年。この年は経済界において大きなニュースが流れた年でもある。
それがサブプライムローン問題だ。
この年、日経平均株価は一時、18,000円をつけるものの、サブプライム・ローン問題顕在化、それに伴う欧米金融機関の損失拡大の影響を受け、世界的株安に発展。日経平均株価も▲11%下落し、翌年へも不穏な陰を残した。
(http://apl.morningstar.co.jp/webasp/marketevent/page/r2007.html参照)
サブプライムローン、これは翌年にはリーマン・ショックとして世界的な経済不況を引き起こす引き金となった。
ところで、サブプライムローン問題とは何か?
それは、2003年後半から2006年にかけてアジア諸国や新興国経済の活性により、米国に外貨が大量に流入して来たことで好景気が起こったことに始まる。
これにより、銀行間の競争が激化したことで、与信基準が大きく低下し、住宅ブームが起こった。
そのため、銀行は貸し付け信用度の低い、所謂サブプライムと呼ばれる層にも、積極的に貸し出しを行うようになった。
そこで、登場したのがサブプライム証券だった。
これは、証券会社が貸し付け信用度の低さをカバーするべく作られた、(高金利+住宅の担保)を組み合わせたハイリスク・ハイリターンの証券のことであり、それらを様々な金融商品に組み込むことで、世界中の投資家達に間接的に投資させることを目的としていた。
こうした金融商品が流行した背景には当時、債権を証券化した商品が投資家達によく売れたという事実があったんだ。そして、世界的に金余り状態だったために、投資家達はそのリスクについてあまり深刻に考えてはいなかったらしい。
実にふざけた話ではあるが、彼らの甘い見通しが、後に世界に金融危機を起こす引き金となったのがこの問題だ。
また、具体的な話をすると、サブプライムローンは低所得層に対するローンであるために、金利が高く設定されていた。それは普通貧乏な人にはお金をあまり貸したくない。
でも、金利が高いと借り手にとってハードルが高くなるために、銀行はあの手この手を使い、そのハードルを下げて、貧乏人に貸しちゃう。
これは今の日本でもよく使われる手法だから覚えておくといい。
景気がいいと経済はバブルを期待してローンを組みやすくするために、あの手この手で借り手のハードルを下げに来る。
もし、あなたが将来ローンを組むなら、その時の金利と経済状況だけで判断すると騙されてしまう可能性もあるということだ。
さぁ、もう一度本題に話を戻そう。
貧乏人に銀行はローンをどうやって貸し付けたか?
まずは沢山借り入れて貰うために、固定金利を低く設定したらしい。
それなら、借りても金利が安いから、お金を返す時に借りる人は安心出来る。
一般的には借金した場合、返す時には必ず利子が付いてきて、それは金利によって額が変動する。だから、みんな安い金利に安心して借り入れてしまう。だが、金利はいつまでも低いままではない。
2003年の6月にFRB(平たく言えばアメリカのお金を管理する機関)は最後の金利引き下げを行い、その後約1年間はFF金利を1%に据え置いた。
しかし、2004年金融引き絞めに転じてから2年間で17回の利上げを行い、これにより過剰流動が是正されることになった。金利が安いと貸す側は困るから、お金がなくならないように政府や金融機関はコントロールするつもりだった。
だが、一方で米国の住宅価格は2006年6月に入り、上昇が頭打ちとなって、8月には値下がりに転じてしまったんだ。
あーあ、こうなると大変だ。値上がりを見込んでローンを組んでいたサブプライム層は、みんな借金を返せなくなってしまう。
そのため、当然に値上がりを当て込んで無理に借りていた人達が返済に行き詰まり、サブプライムローンの返済延滞が発生し始めた。
こうして、アメリカでは住宅ブームから3年。月々の返済額が一気に増え始め、2007年になり表面化したことから、サブプライム問題は広く世に知れ渡っていったという。
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