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でも、この生活から抜け出す方法が分からない。
誰も教えてはくれない
誰も心から自分を知ろうとはしない。
それに、そんなものは知らなくとも生きていける。
彼女はそんな東京の街が好きだった。
キラキラとしたネオンが明るくて眠ることを知らない街だと思ったから。
そう、優しい街だ。
何も分からない人間であっても、お金さえあれば人は優しいし、幸い恵まれた見た目のおかげで、男や恋愛には事欠かない。基本、目覚めたら美味しい朝食がルームサービスで運ばれて来る。
体調が悪いときにはどこからともなく看護師や医師がやって来るし、空調や設備の不備だってすぐ治して貰える。
衣食住に困ることなんて1ミリもなかった。
でも、誰も彼女に詳しいことは話さない。
気の毒そうに、時に無関心に彼女の前を通り過ぎるだけ。
彼女が自分を知ることが出来るのはこのファイルだけ。
名前と身体に関する情報、住所【ここではない】、彼女がここに入居した日。
彼女が望んでいるのは、少なくともこんな生活ではない。
でも、望む望まずに関わらず、自分の生活を変えられずに生きてる人は多い。
それはさっきの男も同じなのかも知れない。
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