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この制裁で相手は死ぬが、俺が辛抱した時間に較べれば一瞬じゃないか、奴らだって何を《あの世》で不平を垂れることがあるだろうか。今まで無事だった利息が溜りに溜まっている。それを回収させてもらうだけじゃないか。
なぜ、こうまで子供を狙うかって? 実はこのあたりの大人は狡猾で悪口を言う時は必ず子供に言わせるんだ。
こちらがたまりかねて文句を言えば、「子供の言うことじゃないですか、大人げない」と、とぼけやがるんだ。散々盗んで儲けて、被害者の俺を「バ~カ! アホ!」と、あしざまに罵って大威張り。こんな図々しいことがあるだろうか?
だいたい親は普通、我が子を守るもんだろうが、それが我が子を盾にして守ってもらいやがるんだ! こんなあべこべな話もないだろう、このあさましいというか、さもしい根性に吐き気がする。だから、ガキを狙ってやる。だって、子供を盾にするってことはそう言うことだよ、盾は攻撃を受けるのが役目だろうがっ!
今夜は家族は九州の親戚の結婚式に呼ばれて、明日にしか帰らない。
今宵はクリスマス、きっと若きカップルは幸せな挙式をしたことだろう。可愛い甥っ子だ。その幸せを祈らずにはいられない。
「出席できなくて、すまなかったな」
俺は手製の濃い緑のサンタの扮装に着替えた。
付け髯は黒だ。ああ、窓を観たら奇麗な満月が見える。妙に気分が高揚してくるじゃないか! 狼みたいに吼えたい気分だ。
これはサンタの弟子のクネヒト・ループレヒトの扮装で、悪い子にはプレゼントの代わりにほっぺをひっぱたくのさ。
俺がやろうとしてるのは、この再現で、ちょっと辛口にアレンジしている。
「見てろよ、たっぷり回収してやる!」
そう呟いていたら、急にインターホンが鳴りだした。
舌打ちして出てみれば、なんてこったあの役立たずの交番警官じゃないか。
「なんですか?」
「犯人のことでお知らせすることがあります」と、いう。
思わず笑みがこぼれた。
(とうとう捕まったのか!)
なら、この計画も中止だ。なにも好き好んで殺しをやりたいわけじゃない。
「わかりました、ちょっと待ってください」と、ドアの施錠を開いたら驚いた。
玄関の前にいるのは、赤いサンタの衣装を着た外国人のおっさんだ。
髭もじゃの大男で、俺よりも三十センチも身長がデカイ。
そのおっさんは「オマエ、ワルイヒト!」と叫んで、なんと、金属バットで俺を殴ろうとするんだよ。
もう涙目だよ、だってそうだろう? あいつらはおとがめなしで、なんでこっちが《暴力》をプレゼントされなきゃならない! もし、こいつが本物のサンタだったら、一言文句を言わせてもらいたいもんだ。
「待ってくれ! まだなんもしてねえよ、それより悪い奴らだったら、他にわんさといるだろうが!」
すると外人はゲラゲラ笑いだした。
「アナタ頭ヘンネ、ワタシ、人間ヨ」
奴の手が止まった瞬間を見逃さなかった。
「じゃあ、強盗ね!」
すかさず頬をひっぱたいたら傑作だった。そいつは頬骨に大穴があいて、ぶっ倒れたよ。よほど痛かったんだろう、ガキみたいに寝転がって顔をおさえて大騒ぎだったね。
俺は戦意を喪失した強盗に「悪い人間、セックスしちゃ駄目で~す!」と言って、股間もひっぱたいてやった。それで奴が死んだかどうかはわかんない! 「ぎゃあああ!」と、悲鳴をあげて動かなくなったね。
ちょっとやりすぎかと思ったけど、まるで自転車のタイヤがパンクしたみたいな音がしたっけ。
可哀そうなんて感情はなかった。どうせジジイどもにけしかけられて、はした金で殺しに来た不良外人だ。
これで、やっと躊躇を棄てられた。決して善良ぶるわけじゃないが、正直なところ、ためらいもあったんだ。
「どうせ、一人やるのも二人やるのも同じだ。もう俺は完全に終わりなんだ」
もちろん、外人を連れてきた警官はグルだ。
警察までが腐ってやがる。
そいつは反撃されるなんて思ってなかったらしく、銃を出そうとモジモジしていたが、ようやくコルトを出すと俺に向かって警告もなく発砲しやがった。
(終わった! 俺の人生!)と、思ったが、運よく銃弾は義手に命中して跳ね返りやがった。
「モジモジして、恥ずかしがり屋さん!」
すかさず、警官の脳天に義手をお見舞いしてやったね。
それも板ばねを縦にして、渾身の力を入れて振り下ろしてやった。
そしたら、傑作で、脳天がきれいにへこんで、上顎から上が真っ二つさ。帽子をとってみたら、まるで頭に尻が出来た様にへこんでやがる。まったくクソみたいなやつにはお似合いの最期さ。これを眺めてると、最後の最後まで人間を捨てきれなかった自分の甘さに反吐が出そうだった。
「殺らなきゃ殺られるんだ」
そう、自分に言い聞かせたよ。
脳漿が傷口からたれたんで、「人の玄関先で、クソをたれるな!」と、一喝して頭を蹴ってやった。もう迷いはない。
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