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静まり返った花火大会の会場を、忌一と凪の二人は手を繋いで歩いていた。履き慣れない下駄のせいでさらに歩調が合わなくなったのを気遣い、忌一が凪に手を差し伸べたのだ。
(今日の忌一さんてなんだか……)
らしくなく女性慣れしていることに違和感を感じるものの、そんなことより自分の激しい鼓動音に気付かれないかの方が、凪にとって気が気ではなかった。
「ど、どうすれば元に戻るんでしょうか。この状況」
「わからないけど、多分こっちへ行けばいいような気がする」
忌一は凪の手を引きながら、川の方へと向かっていた。大会の花火を打ち上げる花火師たちがいるとされる中洲の方向だ。
依然として花火師たちが居るのかはわからず、河原は夜闇に包まれているが、河川敷広場を抜けてコンクリートの土手を降りれば、砂利の広がる河原へと辿り着くのだけはわかっている。
(でも何で川の方なんだろう?)
このまま忌一と会場を離れ、最寄り駅に辿り着けば電車に乗って帰れないのだろうか。もし駅に着いても誰一人出会えないのだとしたら、一体忌一はここまでどうやって辿り着いたのだろうか。
(おじーちゃんが居たから?)
そう思い立ち、凪はハッとした。そう言えば、再会してから忌一の式神を全く見ていない。
「忌一さん、今日はおじーちゃんたちどうしました?」
「ん? 桜爺のこと? じーさんはうちで留守番だけど」
「じゃあ、龍蜷ちゃんは?」
「アイツは変なもん食ったせいで、今はお腹壊して大人しくしてる」
そう答える忌一は一向に凪の方を振り返らず、一心不乱に河原への歩みを緩めない。
「おじーちゃんに訊けば、この状況を打開する方法がわかったんじゃ……」
その言葉を聞いた忌一の足が、その場でピタリと止まった。そしてまた、二人の頭上にあの紅い花火が打ち上がる。
「凪ちゃんは、そんなに早く帰りたいの?」
「え?」
「俺はもう少し、凪ちゃんとこのまま……」
その時、凪の巾着から突然着信音が鳴り響いた。
(忌一さん、今何て……)
そうは思うが、もし電波が繋がったのならこの状況から脱出できる兆しかもしれないと、「ちょっと待ってくださいね」と断って凪は忌一と繋いでいた手を解き、巾着袋の中を覗いた。
すると、暗い袋の中で見えたスマホの液晶画面には、『松原忌一』と表示されている。
「え……」
「どうしたの?」
「え!? あ、ええと……」
(どういうこと!?)
そう思いながらも、とりあえず忌一の前でスマホの着信に応対する。
「はい……」
『凪ちゃん!? 大丈夫?』
「はい?」
『今凪ちゃんのメッセージ見て、会場から自分以外の人が居なくなったって書いてあったから心配で……』
(それって、さっき私が送ったメッセージ!?)
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