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不安を覚えた凪はSNSを使い、人気怪談ライターの多聞航平に相談をした。彼は友人である松原忌一と一緒に凪の所属する清正女子高等学校を訪れ、彼らのおかげで怪奇現象は無事収束したのだが、彼らを呼んだことで逆に興味を持たれ、声を掛けてきたのがクラスメイトの内海葵と笠尾美月だった。
葵と美月は共に多聞の作品の大ファンで、三人は学園祭の準備を通してすぐに打ち解けた。そして何より凪が二人を信用出来たのは、皮肉にもクラスメイトの大半の顔を黒くしたあの怪奇現象だった。当時この二人の顔には、その現象が全く起こらなかったからだ。
かくして学園祭以降仲の良くなった三人は、初めて迎えるこの夏に葵の音頭で「浴衣を着て花火大会へ行こう!」となったわけだが、当然凪の能力が消えたわけでもなく、不安要素が取り除かれたわけでもなかった。
それでも凪が彼女らと共に行こうと思えたのは、同じような能力を持つ忌一が、多聞という友人と一緒にいるのを直接目の当たりにしたからでもある。そして彼とは別れ際に、
『何かあったらいつでも相談して』
と、連絡先を交換していた。
すぐそばの重厚な長方形のローテーブルには、忌一の連絡先の入ったスマホが置いてあり、凪はそれを一瞥して静かに瞳を閉じる。
「多分大丈夫だよ。私一人で行くわけじゃないしさ」
「そう? でも無理しないでよ。具合悪くなったらすぐ友達に言って、先に帰らせてもらいなさい」
「は~い」
母親は着付け完了とばかりに凪の帯をパンとひとつ叩く。帯の色は、浴衣に描かれた朝顔と同じ鮮やかな紫色だ。凪は両手で袖を広げ、その場でくるっとひと回りして見せる。
「いいんじゃない?」
「えへへ。似合う?」
「似合う似合う。馬子にも衣裳」
「もう!」
母子は同時に笑い、仏間を後にするのだった。
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