鬼ヤライノ神隠シ

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「忌一君の彼女であれば、彼と一緒に住むのを想定して部屋を探してくれると思ったのよね。こんなに適任な人はいないわ」  青空が澄み渡る今日のような日は、海まで望めるベランダからの景色を眺めながら史佳は言った。 (それって……この人が同棲する相手って……)  茜が史佳を振り返ると、彼女は勝ち誇ったような笑みを浮かべている。 「あの! 忌一も言ってましたけど、私たちはただの従兄妹同士で、他には何の関係もありませんから!」  つい語気が強くなる。そして早めに鍵渡しを切り上げようと、ベランダからリビングへ一歩足を踏み入れたその時…… 「正直言うと、貴女が彼をどう想おうがどうでもいいのよ。大事なのは、彼が貴女をどう想っているか」  そう言って、史佳は突然茜のこめかみを右手の親指と中指で掴んだ。両方のこめかみに史佳の鋭いネイルが食い込んで、茜は咄嗟に彼女の手首を掴み「痛い!! やめて!! 離して!!!」と叫ぶが、彼女の腕はびくともしない。 「ごめんなさいね。貴女には一ミリも興味ないんだけど、彼が貴女にぞっこんだから仕方ないのよ。?」  史佳の口角は、すでに人間のものとは思えないほど両端に裂けていた。茜のこめかみに爪を食い込ませながら、史佳はリビングの中央へと歩みを進める。  茜は必死に彼女の腕を外そうともがいたが、段々と意識が薄れてきたのか、次第に手の力が抜けていき、瞼も閉じようとしていた。史佳の鋭い爪が食い込むこめかみからは、鮮血が一筋ずつ流れ始める。  その鮮血と望みのものがもうすぐ手に入る興奮からか、史佳はあり得ないほどの長い舌で、思わず舌なめずりをする。だがその時、  バン!!!  玄関の扉が勢いよく開き、ひとりの男が土足でリビングまで駆けてきた。リビングダイニングのガラス扉が勢いよく開き、 「彼女から離れろ!」 と叫んだ男は、勢いよく史佳の顔面に蹴りを入れる。その衝撃で茜を掴んでいた腕が外れ、史佳は大きく後ろへ吹っ飛ばされた。  壁に打ち付けられてぐったりとした史佳の体から、先ほどとは打って変わった低い声音で、 「貴様は……か」 と、発せられる。 「そういうお前は、天深女童子(てんたんじょどうじ)だな。彼女に一つ目を付けたのはお前か!?」  すでに気を失ってしまった茜の肩を抱き、白井は言い放った。  天深女童子とは、六鬼童子の一鬼で、またの名をサグメという。異形の中で最も凶悪で強いのが“鬼”だが、その中でも頂点に君臨するのが六鬼童子と呼ばれる六体の鬼で、その妖力は神に匹敵する。
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