秘宝

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「やった、やったぞー!ついに、発見したぞー‼︎」  男は、雄叫びをあげて大いに喜んだ。その(かたわら)で、この遺跡の守人(まもりびと)だと言う原住民の男が、静観していた。 「すごい…。まさか、ここまで来られるとは…、この秘宝を見つけられるとは思いもしませんでした…」 「だから言っただろ⁈オレは、必ず、この秘宝を見つけ出してみせると!」  男は、冒険家であった。さほど有名ではなかったが、冒険家の世界で、今まで死なずに生き抜いて来ただけの事はあるのだ。  そして、この度、世界でも有数の冒険家が、何人も挑んで、誰一人として帰って来られなかった遺跡に挑戦して、その最深部で秘宝を発見して見せたのだった。 「それにしても、すごい装飾だし、見事な造りだ…!」  男は、秘宝を前に見惚(みと)れていた。 「はい…。我々の先祖が、千年前に創り出した、その名も『王の(あかし)』と言う王冠です」 「いやはや、オレも今まで、いくつかの宝を発見してきたが、これ程の物は初めてだ…!」 「でしょうね…。私もそう思います。この秘宝は、今では採掘出来ない、希少な宝石が無数に散りばめられているし、現代の技術では、真似出来ない秘術を使って生成された金属が、主原料ですから…」 「なるほど!確かに見たことのない金属だ…!それと宝石…!オレの冒険家人生で、間違い無く最高の獲物だ…!」 「だと思います…」  男は、秘宝に手を伸ばして、取ろうとした。だが、秘宝に触れようとした瞬間に思いとどまった。 「どうしました?取らないんですか?」  その様子を見ていた原住民の男が、声を掛けた。 「…。確かに、この秘宝は、素晴らしい物だ…。でも、この遺跡はどうだ?確かに危険な箇所は多々あったし、何度か死にかけはしたが、ここよりももっと危険な遺跡(ところ)をオレは、いくつも経験してきた…。これしきの罠やギミックに、今までに来た名高い冒険家達は引っかかったのか…?それに、それらしき遺品や遺物を一切見かけなかった…」 “パチパチパチ…”  男が、振り返ると、原住民の男が、拍手している。 「いやー、素晴らしい考察です」 「何…?どう言うことだ…⁈」  男は、銃のホルスターにてをかけて、臨戦体制になった。 「おっと、ストップ。早まらないで下さい。私は、別に貴方の命や、金目の物が欲しいわけでは、ないので…」 「何だと…?」 「まぁ、見ていて下さい」  原住民の男は、そう言うと、手に持った小石を秘宝に向かって放り投げた。 “バチッ、ビビビビ…、スンッ…”、  小石は、秘宝に当たった途端に、強烈な音光を放って消えてしまったのだった。 「な、何だ…⁈何をした…⁈」 「見ての通りです。小石を秘宝に投げただけ、それだけです。だけど、小石は消えてしまった」 「なんて事だ…」  男は、顔を引き(ひきつ)らせながら、驚愕した。 「貴方を入れて、十三人です。今まで、この場所に辿り着いた冒険家は。でも、先の十二人は、皆んな秘宝を手に取ろうとして、消えてしまいました。さっきも言ったように、この秘宝は、特殊な秘術で、造られている。きっと“触れたものを、どこか別の時空へと飛ばす秘術”が、かけられているんです。冒険家は、誰もそんな事が、起こるなんて思ってないから、皆んな飛ばされていきました。我々は、言い伝えによって知っていますが、我々の秘宝を奪おうとする輩には、消えてもらう事になっていますので、悪く思わないで下さい」  男は、原住民の話を黙って聞いていた。 「さぁ、帰りましょう。私は、ここに何度も来ているので、さすがに道も罠もギミックも記憶しています。安全なルートを案内します。  何、恥じる事はない。何せ、この遺跡から、無事に帰った初めての冒険家として、胸を張れますよ」  男は、何やら考え込んでいた。 「どうしました?」 「この秘宝は、持ち帰れないんだよな?」 「ハハハッ!貴方もおかしな事を言いますね。今さっき見たでしょう?触れたものは、何でも消えてしまうんです。持ち帰れるはずがない」 「なら、オレが、この秘宝を持っていっても、文句は言わないよな?」  原住民の男は、(あき)れ顔で言った。 「貴方もおかしな事を言う人だな。ええ、言いませんよ!触れもしない物をどうやって、持って帰ると言うんですか⁉︎」 「では、さらばだ!」  冒険家の男は、満面の笑みで、原住民達に手を振り帰って行った。その様子を、原住民達は無念の表情で、見つめる事しか出来なかった。 「おい!何がどうなっているんだ⁈何故あんな事が出来るんだ…⁉︎」 「やられたら…。秘術で、何人たりとも触れられない秘宝、『王の証』は、科学技術とやらの“物体を自在に浮遊させられる杖”の前では、無力だったのだ…」終
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