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「……どこかへ?」
――一体、どこに行きたいと言うのだろう?いろんな、いろんなものがわたしの家や生活や日々の中にあって、それを置いてはどこにも行けないというのに。
「どこかに行ってしまいたい。でもどこへも行けない。だからみんな、夢の中で、僕の船に乗ってくる」
呆れるでもなく、蔑むでもなく、憐れむでもなく、少年はこちらをまっすぐ見ている。夜明けの波間に揺れる船首で。朝の気配を感じ取った山鳩が、船の下を通り少年の背後へ飛んでいくのを、わたしは、泣きながら見ていた。
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