夜明けの波間に

11/17
前へ
/17ページ
次へ
「……どこかへ?」  ――一体、どこに行きたいと言うのだろう?いろんな、いろんなものがわたしの家や生活や日々の中にあって、それを置いてはどこにも行けないというのに。 「どこかに行ってしまいたい。でもどこへも行けない。だからみんな、夢の中で、僕の船に乗ってくる」  呆れるでもなく、蔑むでもなく、憐れむでもなく、少年はこちらをまっすぐ見ている。夜明けの波間に揺れる船首で。朝の気配を感じ取った山鳩が、船の下を通り少年の背後へ飛んでいくのを、わたしは、泣きながら見ていた。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加