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少年は、大人のくせに何時までもぽろぽろと泣いて、要領を得ない私を責めたりしない。きっと、私のようなひとをたくさんこの船に乗せてきたのだろう。
「慰めるわけじゃないけど、聞いて。今日の朝焼けはすごく凪いでてきれいだ。僕も久々にこんな朝焼けの中を漕いだから嬉しい。乗せる人によったら、大しけの日だって、あるんだよ」
マジックアワーの色彩の中で、空を抱きしめるみたいに、少年は腕を広げる。シャツの袖や髪の毛が風に揺れながら空を透かしている。
「ほら見て、きれいだね。いろんな色が光ってるよ。これが、あなたの内側にある、あなただけの穏やかな夜明け」
「だからきっと、あなたはまだ、ちゃんとどこかへ行けると思う」
行きたいところへ。生きたいところへ。
そうだね。行かなきゃね。私はこんなだけど、まだ明るい世界を諦めきれないのだから。
がこ、と音を立てながら、床に転がされていたオールを片方掴んで、私へと差し出す。
「どこかへ流され続けることも選べるけど、舟だってちゃんと進めるんだ。漕ぎ方だって、みんな本当は憶えてる。でも、無様に動かすのがはずかしくてみんなやらないんだ。澄ました顔して流されていくのと、無様でもどこかへ向かおうとするのは、全然違うのに」
「安心して。こんなに凪いでる、どこへでもいけるよ」
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