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少年の言葉のひとつひとつが、私のこころへ落ちてくる。波打つこころの底に吸い込まれては、溶けて、私とひとつになっていく。
――きっと、大丈夫だ。
少年が差し出すオールを見つめて、私はひどく久しぶりに、そんな気持ちになっていた。
オールの持ち手を恐る恐る掴もうとして、はっとして少年を見た。もう、ここへは来られなくなるのかもしれないと思って。
私の心を読んだように、少年はこの日初めて眩しいほどに笑った。
「もう二度と来ないで。あなたがいきたい場所へいくんだよ」
オールに指が触れた瞬間、地平線から鮮烈に陽が差し込んで、少年の姿も小さな船も星も月も眼下に見えた眠る街も、すべてを白く飲み込んで、――
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