夜明けの波間に

16/17
前へ
/17ページ
次へ
 少年の言葉のひとつひとつが、私のこころへ落ちてくる。波打つこころの底に吸い込まれては、溶けて、私とひとつになっていく。  ――きっと、大丈夫だ。  少年が差し出すオールを見つめて、私はひどく久しぶりに、そんな気持ちになっていた。  オールの持ち手を恐る恐る掴もうとして、はっとして少年を見た。もう、ここへは来られなくなるのかもしれないと思って。  私の心を読んだように、少年はこの日初めて眩しいほどに笑った。 「もう二度と来ないで。あなたがいきたい場所へいくんだよ」  オールに指が触れた瞬間、地平線から鮮烈に陽が差し込んで、少年の姿も小さな船も星も月も眼下に見えた眠る街も、すべてを白く飲み込んで、――
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加