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――そうしてわたしは、人生の中で一番やさしい夢から目醒めた。
胸の中には、どうしようもない喪失感が確かにあって、ぽろりと一粒夢の続きのように涙が落ちた。窓からは、厚い遮光カーテンから黄色い朝陽が漏れている。
近づいてそっとカーテンをひらけば、もう、世界はすっかり目覚めて陽の光のただ中にいた。水色に澄んだ秋の空は高い。雲間にどうしても船を探してしまう自分に、少し笑ってしまう。ひどく久しぶりに朝を美しいと感じている自分に、安心しながら。
美しい夜明けの夢が、終わってしまった。いや、「いま始まったんだ」と少年に叱られる気がして、わたしはカーディガンの襟元をぐっと掴む。
朝が、やって来た。
秋と冬のあいだで。
空と街の真ん中で。
夜と朝の隙間で。
きっといまもあの船はどこかにゆらゆらと浮かんでいて、弱いひとたちを朝へそっと帰してあげるあの少年も、朝焼けを見つめているのだろう。
そう思うだけでわたしは、何にでもなれる気がするのだ。
「こんなに凪いでる。どこへでも行ける」
お守りのように口遊む言葉を持って。
どこへだって。
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