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「おはよう」
突然、空の中から少年の声が聞こえてくる。私は心臓が止まるかと思うほどに驚いて、大きくバランスを崩してしまった。小さな船は私の動きに大袈裟に揺れて、慌てて船の縁を掴んで、ぎゅっと目を閉じる。このまま遥か下の街へ落っこちてしまうかと思いひどく背筋がつめたくなったけれど、しばらくすればちゃんと揺れは収まってくる。
揺れが止まってから随分経って、やっと私はそろそろと縁から手を離した。そして、船首のほうをようやく見ると。
小さな少年が、こちらを向いて座っている。
白いリネンのブザムシャツ。紺色のパンツ。折り返した裾から、ベージュのブーツ。この気温にはひどく薄着なシャツと髪が、風に靡いている。
この不思議な男の子を正しく言い表す言葉を私は知らない。いつから彼がいたのか分からない今でさえ、船の一部みたいに違和感なくそこに座っていることを、至極当然のように感じていた。
(私がここへやってくるよりも、ずっとずっと前から彼はここにいたのだろうな)と、何故かわたしは納得していた。
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