6人が本棚に入れています
本棚に追加
「おはよう」
あたりまえのことのように小さく挨拶を返した。少年はこくりと頷くと、陽にてらされた湖面のような、きらきらと光る大きな瞳を船の外へ向ける。
この些細なやり取りは、私がこの古く美しい船に乗っていてもいい証明のように思えた。
どうしてだろう?ほっとしたような、苦しいような、ずっとこうしていたいのに大きな声で叫びたくなるような、ぐちゃぐちゃになった感情が胸の底でさざめいている。
私には何もわからないまま、胸の底で静かに波を立てる何かが目から溢れて、視界の一番下が滲んだ。私の住むはるか下の街はいま、海の底に沈んでいるように見えた。
最初のコメントを投稿しよう!