夜明けの波間に

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「ここは不思議なところね。飛行機以外で空を飛んだのは初めて」 「夢の世界の空をはしる乗り物は、星の数ほどあるよ」 「そうなの?」 「空飛ぶ自動車とか、自転車とか、機関車とか。いろいろあるでしょう」 「全部映画とか本でみたことは、あるけれど」 「ここではふつうのことだよ。みんな目的を持って動いてる」 「目的」 「僕の知ってるタクシーの運転手は、『夢でもいいから故人に会いたい』と思ってる人だけを乗せてる」 「わあ……そのタクシーに乗れば、死んだ人に、あわせてくれるの?」  少年は肩をすくめた。故人に会えはしないのか、それとも少年が答えを知らないのかは、分からなかった。 「アカシックレコード沿いに線路を敷いて走ってる列車も知ってるよ。『選ばれしものに啓示を与える』とか、車掌は言ってた。僕あいつ嫌いなんだ」 「でも列車の窓から、過去も未来も、全てが見えるってこと?すごいね」 「ふん。そんな夢から醒めたら、みんな気が狂ってしまうよ」  鼻を鳴らして少し怒った顔をする少年が可愛くて、笑ってしまう。きっと昔、この可愛らしい舟守と自己陶酔気味な車掌との間に、なにか因縁があったのだろう。  
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