6人が本棚に入れています
本棚に追加
「ここは不思議なところね。飛行機以外で空を飛んだのは初めて」
「夢の世界の空をはしる乗り物は、星の数ほどあるよ」
「そうなの?」
「空飛ぶ自動車とか、自転車とか、機関車とか。いろいろあるでしょう」
「全部映画とか本でみたことは、あるけれど」
「ここではふつうのことだよ。みんな目的を持って動いてる」
「目的」
「僕の知ってるタクシーの運転手は、『夢でもいいから故人に会いたい』と思ってる人だけを乗せてる」
「わあ……そのタクシーに乗れば、死んだ人に、あわせてくれるの?」
少年は肩をすくめた。故人に会えはしないのか、それとも少年が答えを知らないのかは、分からなかった。
「アカシックレコード沿いに線路を敷いて走ってる列車も知ってるよ。『選ばれしものに啓示を与える』とか、車掌は言ってた。僕あいつ嫌いなんだ」
「でも列車の窓から、過去も未来も、全てが見えるってこと?すごいね」
「ふん。そんな夢から醒めたら、みんな気が狂ってしまうよ」
鼻を鳴らして少し怒った顔をする少年が可愛くて、笑ってしまう。きっと昔、この可愛らしい舟守と自己陶酔気味な車掌との間に、なにか因縁があったのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!