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何も言えなくなった私の前で、沈黙は恐ろしい物ではないとでもいうような表情で、髪を風に遊ばせている少年。美しいな。強いな。素敵だな。少年よりもあんまり自分が矮小に思えて、下を向きそうになる。
でも私は、この船にいることをどうしようもなく切望していた。だから、話さなければ。一生懸命不安を振り切るみたいに話題を探す。そしてようやく絞り出した声は、少し上ずっていた。
「……夢の中のいろんな乗り物の運転手たちは、みんな朝焼けの空を走っているの?いまどこにいるの?」
「夕焼け空が好きで走る人もいるし、星の夜にだけ走っているひともいる。朝焼けの時間にいるのは、僕くらいだから、ここには誰もいないよ」
夢の世界の空と言うのは、パラレルワールドのように、同時にいくつもの時間帯や気象条件のものが存在するのだろうか。少年につられて見回した美しい夜明けの空のどこにも、この船以外のものはない。
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