17人が本棚に入れています
本棚に追加
/322ページ
アニエははっと目を覚ました。
また王子様の夢を見ていたようだ。でも、いつもこの場面だけ。王子様の顔を見ようとするといつも目が覚めてしまう。
もはやそれが本当に見た光景なのか、ただの夢なのかもよく分からなくなっていた。
アニエはため息をついて外を見た。
馬車はあいかわらずかわり映えのしない小麦畑を走っていた。収穫期が迫った小麦が色づきはじめ、ゆったりと穂が揺れている。
次に大きなあくびをした。
――マルムまであとどれくらいだろう?
これから八年ぶりにマルムの町に帰るところだった。
行方不明になった後、アニエは母の生まれ故郷であるサリタの森に帰っていた。
サリタの森は「古き森」と呼ばれる森の一つだ。
古き森に住む魔法使いは「森の魔法使い」と呼ばれている変わり種の魔法使いだ。とはいえ、エルフ族の血が流れているという伝承があるものの、実際には町の魔法使いとほとんど変わりはない。ただ、美しいストロベリーブロンドの髪をしていて伝統的な生活を好む、という特徴があるぐらいだった。
最初のコメントを投稿しよう!