第一話 帰郷

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 アニエの肩まである髪もストロベリーブロンドをしている。さらに彼女は珍しいエメラルドグリーンの瞳で小麦畑をじっと見つめていた。  森の魔法使いの中でも緑色の瞳は珍しい。たいていはハシバミ色をしている。母親によればこの緑色の瞳は父親のせいだと言う。父はアニエが生まれてすぐにいなくなったらしい。それ以上、父親のことは何も知らなかった。  アニエたちがマルムを去ったのは収穫祭の前日だった。  せめてお祭りが終わってからにしてほしいと懇願したのに、母は異様な頑固さで出発を決めてしまった。泣きわめいて抗議もしたけれど、普段は物静かで優しい母がそのときばかりはアニエの訴えを一切聞いてくれなかった。まるで悪魔に追われてでもいるかのように急いで町を出ようとしていた。  収穫祭では十歳になると後夜祭の踊りに参加することが許可されていた。アニエもそのために何ヶ月、いや、何年も前から踊りの練習をして楽しみにしていたのだ。収穫祭で身につけるレースの頭巾ももちろん用意していたし、踊る相手と約束もしていたのに。  あの日、幼馴染のアヴィンに一緒に踊れなくなったことを謝りに行ったはずだった。
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