第一話 帰郷

4/19
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/322ページ
 でも、なぜか森の王子様の話になり、最後には喧嘩になっていた。  ――もう二度と、マルムに帰ってくるな!  アヴィンは顔を真っ赤にしてそう言った。  アニエはショックで涙も出なかった。  その涙がようやくあふれだしたのは、次の日、マルムを離れ、馬車の中に夕陽が差し込んできたときだった。それから、サリタに着くまでアニエは泣き続けた。  そのときのことを思い出して胸がわずかに痛んだ。  もう帰ってくるなと言われたけれど八年ぶりに帰ろうとしている。なぜなら、魔法学院に通うためだった。  魔法学院は魔法の勉強や研究をするところだ。学位を取ると、学者や教師、そして王宮付きの魔法使いになることができる。  正直な話、アニエは学者や教師になる気も王宮勤めをする気もなかった。それなのになぜ学院に入ろうと思ったかというと、たんに古き森の生活に飽きてしまったからにすぎない。
/322ページ

最初のコメントを投稿しよう!