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でも、なぜか森の王子様の話になり、最後には喧嘩になっていた。
――もう二度と、マルムに帰ってくるな!
アヴィンは顔を真っ赤にしてそう言った。
アニエはショックで涙も出なかった。
その涙がようやくあふれだしたのは、次の日、マルムを離れ、馬車の中に夕陽が差し込んできたときだった。それから、サリタに着くまでアニエは泣き続けた。
そのときのことを思い出して胸がわずかに痛んだ。
もう帰ってくるなと言われたけれど八年ぶりに帰ろうとしている。なぜなら、魔法学院に通うためだった。
魔法学院は魔法の勉強や研究をするところだ。学位を取ると、学者や教師、そして王宮付きの魔法使いになることができる。
正直な話、アニエは学者や教師になる気も王宮勤めをする気もなかった。それなのになぜ学院に入ろうと思ったかというと、たんに古き森の生活に飽きてしまったからにすぎない。
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